エツコ・プレスリー

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エツコ・プレスリー

 婆さんは暑がりで汗っかき。夏は汗をすぐに拭けるように、首にタオルを常時かけている。キング・オブ・ロケンローのエルヴィス・プレスリーみたいにさ。婆さんの名前は悦子(えつこ)だから、エルヴィス・プレスリーじゃなくてエツコ・プレスリーだな。  そして上半身は白い肌着一枚。しかもノーブラ……。見たくないもんが透けて見えちまう。  婆さんは犬みてえに人懐っこいからお客さんが大好きで、インターホンが鳴ると犬みてえに玄関へ飛んでいく。上半身、肌着一枚ノーブラで。って俳句か?  セールスマンも御用聞きも配達員も回覧板持ってきてくれたご近所さんも、みんな目のやり場に困ってる。俺は孫として恥ずかしい限りだ。  頼むから空気読めよ、婆さん! 「恥ずかしいから、婆さんに注意して」って母さんに頼んでも、苦笑いするだけで婆さんには注意してくれない。嫁姑問題に発展して険悪な仲になりたかないのはわかるけどさ、あんなの恥ずかし過ぎんだろ。このまんまで良いわきゃない。  だから、俺のアロハを婆さんに着せることにしたんだ。黒地だから、見苦しいもんが透けて見えない。うちの婆さんにゃお誂え向きだ。 「これ、あげるから着てくんな」 「え! だってそりゃ、銀ちゃんのシャツだろ?」 「この柄、気に入ったんだろ?」 「そりゃあ、イイ柄だもんねえ」  婆さんは相好(そうごう)を崩す。上の前歯の金歯を光らせながら。 「だったら是非とも、このアロハを着てくれ。着てほしいんだよ」  俺が強く要請してアロハを渡すと、婆さん大喜び。以降、毎日アロハだ。  婆さんは、晩ごはん前に風呂に入ったついでにアロハを手洗いして、厚みのあるハンガーにかけると縁側に干し、シャツを両手ではさんでパンパン叩く。と、朝にはもう乾いてるから、翌日もまた着ちまうんだ。  他の服も着ろっつっても全然聞かない。「あたしゃこのアロハがイイんだよ」って強情で。  だから空気読めよ、婆さん。それしか服持ってねえみたいに見えんだろ? ご近所さんにうちが貧乏だって思われっちまうよ。
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