女子高生みたいな婆さん

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女子高生みたいな婆さん

「あたしゃねえ、髪を一遍(いっぺん)も染めた事がないんだよ」  そう、婆さんは白髪がほとんどない。若々しい黒髪がご自慢で、そのうえ声が異常に若いと来てる。  人懐っこい婆さんは電話も大好きで、電話が鳴ると犬みてえに飛んでいく。で、「はい、原でぇす!」って嬉しそうに元気よく電話に出る。声だけ聞くと、まるで女子高生みたいなんだ。  あれは俺が高二の頃だ。夜、ひとっ風呂(ぷろ)浴びてパジャマに着替えてると電話が鳴った。婆さんが走ってく足音。 「はい、原でぇす!」  婆さんがいつものように元気に電話に出たんだけど、どうも様子がおかしい。 「もしもし? もしもし! あんたみっちゃんかい? 苦しいのかい?」  俺が洗面所から出て「どうした?」って尋ねると、「なんか酷く苦しそうなんだよ。みっちゃんが具合悪くなって助けを求めてんのかもしんない!」って婆さんは青い顔。  ピンと来た俺が受話器を借りて聴いてみると、激しくハァハァ言ってる。やっぱりだ。ちっと前に教室で、「うちにエロ電話かかってきた!」って女子たちが話してたの思い出して、もしかしてと思ったんだよ。 「今の、うちの婆さんだぜ」  変態男に教えてやると、ガチャ! ツー、ツー、ツー。 「切れたよ」と婆さんに受話器を渡す。婆さんは受話器を耳に当てて確認すると、無言で電話機に戻した。 「今のはいたずら電話だ」 「みっちゃんかもしんないじゃないか!」  婆さんは事情を飲み込めてない。 「ほんとに苦しいってんなら、うちじゃなくて119番にかけらぁな」 「けど、もしみっちゃんだったら……」  まだ事情を飲み込めない婆さんは、パープル藤崎を心配してる。パープル藤崎ってのは、白髪を紫色に染めてる粋なご近所さんだ。俺が心ン中で勝手に命名した。 「じゃ、藤崎さんちに電話して確認してみな」 「うん、そうだね」  婆さんは真剣な顔で電話をかける。 「……みっちゃん、無事だったんだね! ああ、良かった!」  婆さんはパープル藤崎の無事を確認すると、事情を説明してから電話を切った。そして俺に振り向き、金歯を見せて嬉しそうに言った。 「みっちゃん元気だったよ」  やれやれ……。 『出てみたら 相手ハァハァ エロ電話』、だろ? そんくらい空気読めよ、婆さん。
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