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婆さんの好きな庭
冬でも暖けぇ二階建ての木造住宅が完成したから、それまで住んでた貸家を引き払い、一家四人は引越した。これで冬でも安心だ。けど、すきま風が吹かない家ン中じゃ火鉢は使えないから、庭に置くことにした。
火鉢は日光を受け、ますますつやつやで綺麗な瑠璃色だ。それで婆さんが皮ごと半切りにしたリンゴやミカンを火鉢の縁に並べてやると、鳥がそれをついばみに来るようになった。婆さんは縁側でその様子を愛でる。目を細めて。
よく来るのが茶色くてチュンチュン鳴くスズメと、スズメより小さくて鶯色で目の周りが白くてチーチー鳴くメジロ。それから体長がメジロの二倍もあってヒーヨヒーヨと鳴くヒヨドリも。スズメと同じくらいの大きさで頬が白くてジジジッと鳴くシジュウカラもたまにやって来る。
雑食性のスズメとシジュウカラは、火鉢から降りてせっせと地面を突っついてる。虫を食ってるらしい。うちの庭だからって遠慮はいらねえ、腹一杯食ってくれ。
俺は日曜になると、朝ごはんの後にポップアップ式のトースターにたまってるパンくずをチラシの上にあけ、庭にパラパラ撒いてやる。トースターがキレイになって母さんは喜んでくれるし、スズメとシジュウカラの腹の足しにもなるし、「今日はいっぱい来てくれるね」って婆さんも金歯を見せて喜ぶから。
メジロとヒヨドリは甘党で、婆さん熱愛の紅椿の蜜もお気に入りらしい。春になって椿が花開くと、メジロがやってくる。でもヒヨドリが来たら、その半分の大きさもないメジロは追っ払われちまうんだけども。
メジロたち、生き物の世界は厳しいもんだ。弱いなら頭ァ使わねえとな。ヒヨドリよりも早起きして蜜を吸いに来い。でもあんまし早いと婆さんはまだ寝てて、果物の準備はできてないかもしんないけどな。
そして毎年爺さんが楽しみにしてたソメイヨシノが咲き始めると、メジロとヒヨドリだけじゃなくスズメもシジュウカラもみんな仲間を連れて蜜を吸いにやって来るんだ。庭の奥の両脇にある二本の桜の大木に群がってる。
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