婆さんの好きな煙草

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婆さんの好きな煙草

 この空気の読めない婆さんとは、俺が小四の頃から一緒に暮らすようになった。  爺さんに先立たれた婆さんに、 「一人じゃ淋しいだろ。一緒に暮らそう」  って父さんが提案したからなんだ。  死んだ爺さんは宮大工で、酒は一切やらないけど煙管(キセル)煙草(たばこ)が好きで、婆さんに首っ丈だった。  父さんも宮大工だけど、煙草は一切やらない。そして婆さんに似て()(くち)つまりイケる口で、母さんに首っ丈だ。  そんでうちの婆さんは、酒だけじゃなくて煙草も好きで、それまでずっと高嶺(たかね)っていう煙草を吸ってたんだ。  爺さんは若い頃、高嶺吸ってるグラマーな婆さんを見て、 「小粋な女だ!」  と惚れちまったらしい。 「俺が(わけ)え頃な、高嶺吸ってる粋ちょんな悦子にとーんときたんだ。悦子はぼっとり新造でなぁ」  って、生前よっく惚気(のろけ)てたもんだ。  けど爺さんが年末、風呂上がりに倒れて病院で息を引き取り、一月に高嶺の国内販売が終了になって煙草の買い置きがなくなると、婆さんは煙草をすっぱりとやめた。 「あたしゃ高嶺以外の煙草なんざぁ吸いたかないんでね」  っつって。
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