誕生日

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「そこに戸倉さんも異動になるんですか?」 わたしは戸倉さんの横顔に尋ねた。 話の流れ的には、それしか考えられない。 戸倉さんは視線をわたしに戻すと、「そうなんだ」と認めた。 「まぁ、部署といっても、少人数だし、そんな堅いカテゴリーじゃなくて、そうだな、”チーム” みたいな感じでとらえてくれたら分かりやすいかな。それで、そのチームに白河を連れていきたいんだ」 いいかな? 了承を得るというよりも、確認事項のように尋ねられて、もちろんわたしは頷くつもりだったけれど、まだまだ未熟なわたしが戸倉さんの役に立てるのか不安にもなってきた。 「……わたしで、大丈夫なんでしょうか?」 「もちろん。白河は即戦力になるからメンバーに入れてくれって上と掛け合ったんだよ?」 「そんな、即戦力なんて……」 かすかに狼狽えるわたしに、戸倉さんは優しく慰めるように背中をトントンと叩いた。 それは、親が幼い子供を守るような仕草だった。 「白河は自己評価が厳しいけど、贔屓目なしに見ても優秀だよ。周りをよく見ているし、他の人間が気付かないことにも素早く反応する。周囲に流されずに的確な判断ができるところは、研修のときから目立ってた。それに……」 そこで話を切った戸倉さんは、わたしの背中から髪の先に手を滑らせた。 「…白河が、僕との噂を気にしいてたみたいだったから」 「え?」 「OJTが終わったくらいから、ちょこちょこ僕達の噂されてるの、気付いてたんだろう?」 わたしの髪を触っていた戸倉さんの手は、また背中に戻る。 「表面化してきたのは最近かもしれないけど、もっと早くから、噂好きな女性社員の間では白河と僕の名前があがっていた。だけど白河は気にしない様子だったから、僕も気付かないフリをしていたんだ。それでも、些細な噂話がいつか厄介な存在になるかもしれない、そう思った僕は、白河と僕が一緒にいることを不自然に感じなくなる方法を考えていた。ちょうどそんなときに、新しいプロジェクトの打診があったんだ」 「それ、いつ頃の話ですか?」 「今年の2月くらいかな。始まったら結構長い期間になりそうだし、これは利用しない手はないと思った。白河は仕事もできるし、僕にとっては一石二鳥だと思ったんだ。そうしたら、白河がわずかに感じてる居心地の悪さも解消できるかもしれないだろ?新しいチームに入って目に見えるかたちで評価されたら、白河も少しは自信がつくかもしれないしね」 さっきまで漂っていたベッドでの艶っぽさはどこへ行ったのか、戸倉さんは朗らかに話してくれた。
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