誕生日

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戸倉さんは戸惑うわたしにフッと笑いかけて、肘ついていた腕を枕に沿うかたちに伸ばした。 そして「ん…」と、腕枕に誘った。 わたしは遠慮がちに、そっと誘いに応じたけれど、戸倉さんの腕に頭を乗せる瞬間は、ほのかに緊張した。 「そういえば、そのお礼に白河をランチに何度も誘ってみたけど、なかなか付き合ってくれないって松本がボヤいてたな」 体勢を変えたことで剥き出しになってしまったわたしの肩に、戸倉さんは指を這わしながら呟いた。 まだが残っているわたしは、たったそれだけでもピクッと反応してしまう。 そんなわたしの小さな変化を戸倉さんが見逃すわけはなくて、そのまま、肩を押されてのしかかられた。 「白河……もう一度、いい?」 甘く、ねだられて。 わたしは戸倉さんの掠れた囁き声に流されそうになるけれど、 まだ話の途中だったことを思い出し、近付いてくる戸倉さんの唇を手でおさえた。 「ま、待ってください。戸倉さんは、ヨーロッパ勤務になるわけじゃないんですよね?」 「そうだよ。三週間の出張には行くけどね」 キスを防いだことを咎めるでもなく、戸倉さんは笑って答えてくれる。 「じゃあ、わたしと戸倉さんが一緒に働けるって、どういうことなんですか?そのヨーロッパ出張とは関係ないんですか?」 間をあけず尋ねたわたしに、戸倉さんは近寄らせていた顔を少し退いた。 その仕草は、わたしにちゃんと説明してくれる意思表示のように感じた。 「関係なくは、ないかな」 珍しくぼやかしたような言い方をしながら、戸倉さんはわたしの剥き出しの肩にシーツをかけた。 火照っていた体も落ち着いてきて、エアコンが効いている部屋で素肌でいるのは、ちょっと冷えてしまうのだ。 戸倉さんのさりげない優しさは、ベッドの中でも存在感があった。 「……ありがとうございます」 「風邪なんかひいてほしくないからね」 ふわりと微笑む戸倉さんに、不覚にもドキリとしてしまう。……もっと大胆なことをした後だというのに。 「そうだな、何から説明しようか…」 戸倉さんは思案するように視線を宙に投げた。 そしてそのまま、 「まだ公にはなってないけど、今度、新しい部署ができるんだ」 どこか、厳かに告げた。
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