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  僕が彼を観察し始めたのは、ほんの気まぐれで単なる暇つぶしだった。場所は図書館の裏手にある林。針葉樹が無雑作に育ち、晴れていても薄暗い印象がある。   しかし、冬になると一変して明るくなる。銀粉を散らすように雪が降り、それが積もると太陽と月の光を反射してパッと輝くのだ。針葉樹の林を縫って抜けると、寂れた廃墟があった。   コンクリート仕立てで、そこそこの大きさであるが息をひそみ佇むその廃墟はすっかり人々から存在を忘れられているようだった。僕は図書館へ行くふりをして林へ向かうと決まってその廃墟へ向かう。   ――つまりは、まぁ、廃墟マニアだ。   そんなわけで林をうろついていた所”彼”を見つけたのだった。林の中で見慣れぬ足跡を追うと僕とそう歳の変わらない男(20代前半くらいだろう)が、一本の木の前で足を止めていた。   比較的枝が低く、幼い木であるようだった。不思議にも彼はその木の幹を愛おしそうに触れるとほっと白い息を吐いた。僕は少し緊張していた。   彼がもう少し先に行けば僕の秘密がある。どうか気づかれないようにと祈れば、彼は元の足跡を辿って図書館の方へ戻っていくのだった。
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