考えるシャツ

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 私はシャツだ。あの日、見慣れたショッピングセンターの紳士服売場で彼は私を手に取った。  彼は売れ残っていた私を一目で気に入り、レジまで持っていった。  店員から私を入れた袋を受け取り、彼が腕にかけた瞬間、私は彼に所有された。  うっすらと外が透けて見える袋の中で心地よく揺さぶられながら、どれくらい経っただろう。再び眩い光が差し込んだときは、彼の家の中だった。  彼は新品の私を透明のビニール袋から出し、洗濯機に放り込んだ。  抵抗もできず他の衣料品と一緒に回される。はじめて回された私は、目眩と水の冷たさで意識を失った。  目覚めたときは窓のカーテンレールにかかったハンガーに覆いかぶさっていた。彼の姿を見下ろせる場所だ。  彼がちゃぶ台で食事をし、パソコンのキーボードをかたかた叩くのをただぼーっと見ていた。  そして、私の密かな願いがやっとかなったのだと実感したのだった。  こうして彼を間近で見られるのなら、生まれ変わったのも悪くない。
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