お昼休み12:00

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「あの……来週からこの学校で教える、山崎一です」 リクライニング機能もついた高そうな椅子を、クルッと前に向けた瞬間、山崎は絶句した。 理事長と思わしき人物の顔は、なぜか白い仮面の様なマスクに覆われており、かすかに涼し気な目元が見てとれるくらいだ。 「ふ、ふざけないで下さい!なんの余興です!」 「至って真面目ですが」 「やっぱり!やっぱり学校は腐っている!理事長が、マスクを被っているなんて聞いたことない!」 ほんの少し。 ほんの少しだけ、赴任先の姥桜学園に期待していた自分がいた。 もしかしたら、今度こそ理想の教師になれるのではないか? そのわずかな期待を、秒殺してくれたマスクの理事長に、怒りが抑えられなかった。 「落ち着きなさい、X先生。私は、理事長兼校長の天海空(あまみそら)。ギリギリ、キラキラネームではありません」 自分の名前を気に入っている様子の理事長は、ゆっくりと白いマスクを外した。 瞬間、山崎は思った。 世の中は不公平だ。 地位も手に入れ、名前も今風、トドメはお決まりのイケメンかいっ!! 「わかっただろう?私がマスクをしなければならない理由が」 「いいえ、わかりかねます!そんなにイケメンならば、堂々と晒した方が良いに決まっている!」 デスクに置いてあったケースから、センスの良い眼鏡を取り出す。 眼鏡をかけても、イケメンが知的イケメンに増し増しになるだけだ。 「で、確認するが。資料はしっかり読んでくれましたか?」 「もちろん、2時間かけて熟読しました」 嫌味たらしく言ったつもりだったが、理事長は首を傾げている。 「私の作った、17850ページからなる壮大な姥桜ストーリーを2時間で?」 「1万!?僕が渡された資料は、確かに多かったけど……そんなページ数ではありませんよ」 前高校の校長は、あまりの資料の多さに辟易し、少しだけ山崎に渡し、残りはメモ用紙代わりに使っている。 もちろんそれが、姥桜の壮大なストーリー部分だ。
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