2年前の8:30分

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始業のベルが鳴っても、教室が静まる事はない。 教壇に立ち授業を始めても、誰も真剣な眼差しを向けない。 高校教師になって1年、山崎一(やまざきはじめ)は完全に舐められ、馬鹿にされ、無視されている。 憧れは熱血教師。 3年間という短い生徒達のアオハルを、精一杯有意義な時間にしてやりたい。 なのに……。 「ウザイ」 山崎の熱い思いは、生徒達の冷めた一言で打ち砕かれた。 構い過ぎも良くないのかと、少し抑え気味に接すれば、モンスターペアレンツが怒鳴り込んできた。 「やる気あるの?」 「頼りないにも程がある。だから新米は駄目なんだ!」 新米教師の山崎は、すかさず同僚に相談する。 こんな時は、先輩教師のアドバイスが頼りになるものだ。 「モンスターペアレンツ?適当に処理して。反抗的な生徒?適当に処理して。熱くなったら駄目だ。笑顔でハイハイ言っといて」 やる気のない同僚に反発すれば、次の日から誰も口をきいてくれなくなった。 生徒だけではない、教師も親も世の中さえ何処かおかしい。 いじめ、援助交際、パパ活。 半グレ、闇バイト。 盗撮、淫行、教師間いじめ。 何かが違う。 どこかがズレている。 ここは高校なのに……。 夜中に何度も目が覚め、眠れなくなった。 始業のベルを聴くとじんましんがでる。 情けなくて涙が滲めば、血尿も滲む。 極めつけは、謎のくしゃみだ。 授業中に、何度もくしゃみがでる。 「またかよ〜!キモいんだよ、そのくしゃみ〜」 「ほんとそれ!」 生徒達にはやし立てられると、ますますくしゃみは止まらない。 授業になったもんじゃない。 「どうして……僕の何が気に入らないんだ……それにどうして止まらないんだよ、このくしゃみ……」 情熱が冷めていく。 代わりに込み上げてくるのは、昨夜食べたカルボナーラだ。 「虚弱かよっ!吐くなら出てけよ」 「毎日青い顔してウザイんだけどぉ」 体調が悪くなればなるほど、生徒達は攻撃的になった。 まるで山崎に、トドメを刺すかのように。
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