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授業中、生徒の頭上を水風船が行き来する。
すかさず取り上げ注意をすれば、奇声をあげて威嚇する。
ゲラゲラ笑う生徒。
机をガタガタ鳴らす生徒。
メイクに夢中な生徒。
まるで、動物園の猿山だった。
「そうそう、山崎先生。授業を聞かない生徒など、猿だと思えばいいんです。先生もだいぶん馴染んできましたね」
「……猿じゃないです。生徒なんです……」
「いつまで意地を張っていられるか。楽になりましょうや、山崎先生」
山崎は毎晩夢をみる。
放課後の教室は、不思議な色合いを醸し出していた。
夕陽が差し込む少し気だるい時間が、生徒達の笑い声でかき消される。
(先生みーっけ!)
(山崎先生、ここ教えてよ)
(先生、早く部活行こーぜ!)
窓から爽やかな風が入り、教室のカーテンを持ち上げる。
(あぁ。教師になって良かった……)
現実逃避なのか、毎晩みる夢は穏やかで、充実していて、何より楽しい。
最近では、夢の中でこれは夢だと理解していた。
そんな理想的な夢のせいで、もう少し頑張ってみようと思ってしまう。
まだ何処かに救いはあるのだと。
「くしゃみ野郎が来たぞー!」
「えー……ウザイから寝るー」
現実なんて甘くない。
目の前の生徒達は、やはり今日も猿達だった。
「あんたさ〜、なんて名前だっけ?影がうす〜いから忘れたわ!」
「山田でいいんじゃね?」
いつも先頭に立って攻撃してくるボス猿が、ニヤニヤ笑いながら近付いて来た。
「授業は始まっているんだ。席に着きなさい……えっくしょん!!……失礼」
「また始まったわ、キモいくしゃみ。いっその事、あんたの名前さ〜Xって呼ぶわ。えっくしょん、えっくしょん、ウザイからさっ!」
他の生徒から拍手が起こる。
この日から山崎は、X先生と呼ばれるようになった。
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