2年前の8:30分

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授業中、生徒の頭上を水風船が行き来する。 すかさず取り上げ注意をすれば、奇声をあげて威嚇する。 ゲラゲラ笑う生徒。 机をガタガタ鳴らす生徒。 メイクに夢中な生徒。 まるで、動物園の猿山だった。 「そうそう、山崎先生。授業を聞かない生徒など、猿だと思えばいいんです。先生もだいぶん馴染んできましたね」 「……猿じゃないです。生徒なんです……」 「いつまで意地を張っていられるか。楽になりましょうや、山崎先生」 山崎は毎晩夢をみる。 放課後の教室は、不思議な色合いを醸し出していた。 夕陽が差し込む少し気だるい時間が、生徒達の笑い声でかき消される。 (先生みーっけ!) (山崎先生、ここ教えてよ) (先生、早く部活行こーぜ!) 窓から爽やかな風が入り、教室のカーテンを持ち上げる。 (あぁ。教師になって良かった……) 現実逃避なのか、毎晩みる夢は穏やかで、充実していて、何より楽しい。 最近では、夢の中でこれは夢だと理解していた。 そんな理想的な夢のせいで、もう少し頑張ってみようと思ってしまう。 まだ何処かに救いはあるのだと。 「くしゃみ野郎が来たぞー!」 「えー……ウザイから寝るー」 現実なんて甘くない。 目の前の生徒達は、やはり今日も猿達だった。 「あんたさ〜、なんて名前だっけ?影がうす〜いから忘れたわ!」 「山田でいいんじゃね?」 いつも先頭に立って攻撃してくるボス猿が、ニヤニヤ笑いながら近付いて来た。 「授業は始まっているんだ。席に着きなさい……えっくしょん!!……失礼」 「また始まったわ、キモいくしゃみ。いっその事、あんたの名前さ〜(エックス)って呼ぶわ。えっくしょん、えっくしょん、ウザイからさっ!」 他の生徒から拍手が起こる。 この日から山崎は、X先生と呼ばれるようになった。
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