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「懐かしいね……どんど焼きの後で食べるおぜんざいが美味しかったなぁ」
安全面からか、地域でどんど焼きをしなくなってしまい、最近の子供にはどんど焼きなどわからないだろう。
焼き餅か何かの名前だと思っているかもしれない。
姥桜学園の乙女達の胸に、それぞれの懐かしい思い出が浮かんでいた。
祖母や祖父に連れられて、母と一緒に、大好きな友達と、燃え上がる火をみながら甘味を頬張る。
字がきれいになーれ
風邪をひきませんように
賢くなりますように
パチパチと爆ぜる火の粉と、終わった後のやけに物悲しい黒い灰と。
「今、思えばさぁ。幸せな思い出だよね」
「今の子供達にも体験させてあげたいね……」
「ほんと!最後に焼き芋分け合ってさ。大人になって、ふと思い出してクスクス笑えたらいいよね」
乙女達が、後世に伝え残していくものは過去の悲惨な歴史だけではない。
良い思い出になる伝統やしきたりも、たくさん伝え残したい。
深紅の薔薇乙女、水木早苗が手をパンパンと鳴らし注目を集めた。
「今日の焼き芋大会は、私達にとって命の大会だけどね。これだけ立派な櫓が3つ。子供達の為に使おうよ!」
「つまり、少し遅れのどんど焼き大会?」
「やろう、やろう!明日は土曜日だしさ、地域の子供達にどんど焼きを教えてあげたい!」
提案は、ウェーブのように校庭にいる乙女達を巻き込み返ってくる。
異論をとなえる乙女などおらず、先生達も微笑んでいた。
「どこまでやれるかわからないけど、まずはお知らせしなくちゃね。急だから、なおさらね?」
山崎とラシード先生が走り出した。
とりあえず商店街ヘ急げ、商工会会長と自治会長に協力を仰ぐのだと。
時任先生は、呆気にとられている長山先生を引きずり調理室に閉じこもった。
桔梗乙女と薔薇乙女もそれに続く。
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