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「随分、賑やかな夜だったな……」
夜の姥桜学園をパトロールしている地獄に仏クラスは、夜明け前の調理室を覗いている。
生徒達が入れ代わり立ち代わり、時に爆笑しながら、時に小競り合いながら何かを作っていた。
自分達が手伝える事などないが、せめて不審者が侵入するのを防ぎたい。
元気一杯だった生徒達が、一人二人と脱落し、壁に寄りかかりウトウトしだす。
そして今は、全員がそれぞれ眠りやすい態勢でつかの間の休息中だった。
大山と本田がお互いに寄りかかり眠っている。
時任先生に肩を貸して、穏やかな寝顔は永慶先生だ。
なぜか寺崎は、黒木先生と絡み合って床に転がっていた。
山崎は……。
さつまいもの入っていたダンボール箱に頭を突っ込み、大の字で眠っていた。
理事長が掛けてくれた毛布を身体に巻き付け、軽いイビキと寝言が面白い。
《どんどん焼けてく〜》
何が焼けているのだろう、ラシード先生。
《ササミジャーキー!》
《淀川の水は合わへんし!》
寝言もやはり関西弁か、竹内。
地獄に仏クラスはそっと調理室を後にした。
もうすぐ夜が明ける。
急遽決まった「どんど焼き祭り」に、子供達は来てくれるのだろうか。
「後1時間、寝かしてやろう。今日はきっと忙しくなるからさ」
目が覚めた乙女達が、化粧をし直したり髪を整えたりしている間、商店街のパン屋さんから差し入れが届いた。
焼き立てパンは絶大な効力を発揮し、乙女達はみるみる元気になってしまう。
「ポンパパーンの焼き立てパンは最高!ちょっと、誰?ここにキープしていたウィンナーパンを食べたのっ!」
「しーらないっ!」
焼き立てパンの取り合いを、笑いながら微笑ましいと勘違いしてはいけない。
乙女達は、ワゴンセールやタイムセールには命を燃やしてしまう性なのだ。
苛烈にがめつく。
より多く、より満たされる為に。
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