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あやちゃんの可愛らしいおねだりに、ごろうくんはデレデレだ。
3つの櫓は、勢い良く燃えはじめている。
竹の爆ぜる音が小気味よく、火の粉が時折風に舞う。
「ほんとに字がきれいになる?書き初めを持ってきたけどさ〜」
恐る恐る火櫓に近づき、熱さに顔をしかめる子供達。
そんな時は、アマリリス乙女と水仙乙女が代わりに放り込んでやる。
「さぁ、願い事はある?あれば願ってごらん」
「うん。生まれてくる弟が、お母さんを独り占めしませんように」
アマリリス乙女は心の中でクスリと笑う。
子供の願い事は正直だ。
後ろで聞いていたお腹の大きいお母さんが、そっと頷いた。
中学生だろうか。
男4人が何やら揉めていた。
「50点以下のテストは燃やす!心機一転、今年は55点を目指すからな!」
「どうせなら、90点にしろよ〜。55点って、下手したら平均以下だろ?」
「だから、その微妙なギリギリを狙うのが難しいんだろー。わかってねーな」
挙げ句に、来ていた父親にテストの点数がバレ、その場でお説教となった。
さすがに火の神様も苦笑いで、青竹が派手な音をたてて崩れた。
午後に近づくにつれ、通りがかりの人達も珍しそうに姥桜学園に入ってくる。
昨年買ったお守りを取りに帰る女子高生は、お守りは一度買うといつまでも持っていて良いと勘違いしていたらしい。
「1年守ってもらったら、ありがとうと神社仏閣に返すんだよ?初詣の時でも、こんなどんど焼きの時でも良いからね」
「マジで?だから効果なかったんだ!」
戻ってきた彼女の手には、恋愛成就のお守り3つと金運アップのお守りが握られていた。
「神様ごめんなさい!知らなかったから、今回は許してね?彼氏欲しいから!ほんとに欲しいから!で、ありがとう」
不思議と自分が燃やした物は、立ち止まりジッと見てしまう。
火の魅力と云うか、魔力と云うか。
皆、頬を炎に染められながら、燃えてゆく様子をしばし見つめていた。
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