それぞれの願い事の11:00分

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小さな願い事も、地球征服などのダイナミックな願い事も、日常の愚痴に近いお願いもみな炎が飲み込んでゆく。 子供達のお願い事に、火の神様も大わらわだろうか。 櫓が燃え落ちた頃合いに、乙女達のお待ちかね、さつまいもが投入された。 アルミホイルに包んだり、そのまま入れたり、こだわりがあるようだ。 香ばしい匂いが、あれこれ食べてお腹がいっぱいなはずの乙女達に纏わり付けば、なりふり構わずさつまいもに串をさす。 「まだまだ硬いわね……」 「焦ってはだめ!ガン見したら焼き芋の魔力にとらわれるからね!見ないふり、見ないふり……」 待ったかいがあった。 我慢して良かった。 おばあちゃんからあやちゃんまで、出来上がった焼き芋を頬張ると、ほっぺを押さえて良いお顔だ。 「美味しいですか、あやちゃん。この焼き芋は、神様の焼き芋ですね。私の口には合わないが、あやちゃんの美味しいお顔は嬉しいです。あ、熱いですよ?私がフーフーしましょうか。余計に熱い?火車だけに、火車あるあるですね」 「わかんないけど、あやねぇ……大きくなったらごろうくんとけっこんする!それがあやのおねがいだよ?」 これだから子供と云うのは神様に好かれるのだ。 残酷なくらい無垢で、欲望はストレートだ。 「あやちゃんが大きくなるのを、私は待っていますよ?なーに、私は長生きですからね。待っています、ずっと、永遠に」 今年の焼き芋はホクホクで甘かった。 けれどもやっぱり一口くらいしか食べられなくて。 そのかわり、姥桜学園の校庭は暗くなるまで賑やかで、乙女達は笑顔でどんど焼き祭りを終えられた。 山崎は願った。 パチパチと爆ぜる火の粉に願った。 どうか丸山先生を返して下さいと。 姥桜学園に丸山先生を返して下さいと。 願いは届くだろうか、丸山先生に。
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