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小さな願い事も、地球征服などのダイナミックな願い事も、日常の愚痴に近いお願いもみな炎が飲み込んでゆく。
子供達のお願い事に、火の神様も大わらわだろうか。
櫓が燃え落ちた頃合いに、乙女達のお待ちかね、さつまいもが投入された。
アルミホイルに包んだり、そのまま入れたり、こだわりがあるようだ。
香ばしい匂いが、あれこれ食べてお腹がいっぱいなはずの乙女達に纏わり付けば、なりふり構わずさつまいもに串をさす。
「まだまだ硬いわね……」
「焦ってはだめ!ガン見したら焼き芋の魔力にとらわれるからね!見ないふり、見ないふり……」
待ったかいがあった。
我慢して良かった。
おばあちゃんからあやちゃんまで、出来上がった焼き芋を頬張ると、ほっぺを押さえて良いお顔だ。
「美味しいですか、あやちゃん。この焼き芋は、神様の焼き芋ですね。私の口には合わないが、あやちゃんの美味しいお顔は嬉しいです。あ、熱いですよ?私がフーフーしましょうか。余計に熱い?火車だけに、火車あるあるですね」
「わかんないけど、あやねぇ……大きくなったらごろうくんとけっこんする!それがあやのおねがいだよ?」
これだから子供と云うのは神様に好かれるのだ。
残酷なくらい無垢で、欲望はストレートだ。
「あやちゃんが大きくなるのを、私は待っていますよ?なーに、私は長生きですからね。待っています、ずっと、永遠に」
今年の焼き芋はホクホクで甘かった。
けれどもやっぱり一口くらいしか食べられなくて。
そのかわり、姥桜学園の校庭は暗くなるまで賑やかで、乙女達は笑顔でどんど焼き祭りを終えられた。
山崎は願った。
パチパチと爆ぜる火の粉に願った。
どうか丸山先生を返して下さいと。
姥桜学園に丸山先生を返して下さいと。
願いは届くだろうか、丸山先生に。
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