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姥桜学園に着くと、山崎はポカンと口を開けたまま校舎を見上げた。
まだ新しい校舎は、都会の庁舎のようにセンスが良く大きい。
「これは、間違って住民票でも取りにくる人もいるんじゃないかな」
校庭は狭いが、奥には花壇が見え、花の手入れをしている人が見えた。
ちょうどその人も、門前に立っている山崎に気がついたのか、小走りにやって来た。
「こんにちは。姥桜学園に御用ですか?」
農作業をする時に被る日除け帽子から、人の良さそうな笑顔をのぞかせたおばさんが、通用門を開けながら尋ねてくる。
「あ、はい。来週からこちらで教鞭をとる、山崎です。今日は挨拶に来ました」
「まぁ!まぁ!ご苦労さまです。理事長室は正面玄関をまっすぐ、突き当りを右ですからね」
山崎は丁寧に頭を下げると、校舎へと歩き出した。
おばさんは、しばらく舐めるように山崎を観察していたが、ニヤリと笑うとこちらも校舎へと走り出した。
「しかし……金持ちのお嬢さん学校か?何なんだ、この設備の豪華さ」
前高校の廊下も壁も、掃除はしているがお世辞にもきれいとはいえなかった。
シミや傷があちこちにあったし、色合いも華やかさはない。
ところがこの姥桜学園の廊下も壁も天井も、部屋のドアや窓でさえ、モデルルーム並みの明るい造りだ。
「こんな金持ち学校、ほんとにあるんだな」
廊下を突き当り右に曲がると、理事長室が見えた。
手作り感満載のドアプレートに、手書きで『理事長の部屋』と書かれてある。
山崎はひとつ深呼吸をすると、控えめにノックをした。
「どうぞ」
意外と若そうな声が中から聞こえ、山崎の手が止まる。
目の前で揺れているプレートには、確かに理事長と書いてある。
そっとドアを開けると、こちらに背を向け座っている男がいる。
ブランドのスーツに身を固め、サラサラヘアーが、開け放たれた窓から入る風で揺れていた。
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