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「ロヴィ。おいで」
侯爵家の主寝室でイェルハルドが優しく手を差し伸べる。
イェルハルドが二十歳、私が十五歳の時、先代の侯爵夫妻が馬車の事故で亡くなった。
爵位を継いでからイェルハルドは私を主寝室へと誘う。最初は口付けをして抱き合うだけで、十八歳になった時に初めて結ばれた。あれから二年が過ぎ、私は二十歳になった。
ベッドにいる間だけは取り巻きがいない。
イェルハルドが私だけを見てくれることが嬉しい。
今日も薬を手渡された。カップに半分程の濃い緑色の液体を飲み干す。
「……薬が苦すぎるわ」
本当は飲みたくはない。飲んだ後、数日は微熱と下腹部が絞られるような痛みが起きる。この怪しげな避妊薬は正規に流通している薬ではないと知っている。
「ロヴィの為だから我慢して欲しいな。結婚したら飲まなくてよくなるよ」
イェルハルドが優しく笑うけれど、本当は私の為ではないとわかっている。
この国では貴族が結婚前に身ごもることは許されない。
婚前交渉は本来行うべきではない。
理解してはいたけれどイェルハルドに求められることが嬉しかった。
「ロヴィ、こんなに腰を締め付けなくてもいいよ」
私のドレスを取り去ったイェルハルドが胴衣のボタンを外そうと躍起になっている。
「……これが最近の流行なのよ」
ボタンを外す間に今日は諦めて欲しい。そう思っていたのに、背中の紐を緩めると簡単に外せることに気が付かれてしまった。
「ロヴィの手触りは本当に素敵だ」
イェルハルドの溜息混じりの感嘆に肌が震える。あちこちを撫でられると心が震える。
イェルハルドの淡い金髪をさらりとかき混ぜる。
「くすぐったいよ。ロヴィ」
くすくすと笑いながら、何度も軽く口付ける。
イェルハルドの瞳に、青緑の髪、青の瞳の私が映る。
こうして抱き合って口付けをしている時間が一番気持ち良い。
「もういいかな?」
私は不満を感じた。いつもなら、もっと抱き合う時間が長いのに。
「もう少しだけ、こうしていたいの」
「ごめん、出かける約束があるんだ」
イェルハルドの返答に内心驚く。いつもなら朝から夜まで一緒に過ごすはず。
「それでは、今日はもう終わりにしましょう」
私の言葉に一瞬眉を下げたイェルハルドは、強引に事を進めた。私の体の負担を考えない、一方的な行為が続く。
「……痛いわ。……やめて」
我慢できずに訴えた途端、イェルハルドが呻いて果てた。
温かい体が覆いかぶさってくる。いつもならこの重みで感じる幸せを、今日は感じることができなかった。
「ごめん。ロヴィが素敵で、やめられなかった」
私の流した涙をイェルハルドが唇で吸い取って、私は静かに目を閉じた。
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