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一際技巧を凝らし、伸びやかな竪琴の音色で演奏会は終わった。
魔法灯が煌めく王宮内のホールで、宮廷楽師による演奏会が行われていた。
舞台に立つのは二十名程の宮廷楽師。厳しい試験を合格した者達だ。男性は渋水色のロングコートに黒いトラウザーズ。女性は渋水色の袖のないドレス姿で楽器を演奏する。
「どうなさったの?」
席を立とうとした時、隣に座っていた婚約者イェルハルド・レーフグレーン侯爵の顔が紅潮していることに気が付いた。淡い金髪に緑の瞳。少し着崩した黒い夜会服は、二十五歳になったばかりのイェルハルドに退廃的な魅力を加えている。
「あの竪琴の奏者は素晴らしいね」
イェルハルドが珍しく女性を褒めた。長い紫紺色の髪に紫の瞳の美しく若い女性奏者は、最近の話題の中心人物だ。
「最近、宮廷楽師になったのだと聞いています。何でも、とてもすばらしい成績で試験に合格したとか」
貴族の女性だけの茶会では、男性の注目を浴びる女として危険人物と認識されている。一般国民で正規の教育を受けていないらしく、子供のような言動が貴族の男性達には新鮮で、好意的に受け止められている。
「そうか。名前は知っているか?」
「……クラーラと聞いています」
「クラーラ。……素敵な名前だね。クラーラ……」
イェルハルドが舌で転がすように女の名前を呼ぶ。
「……ほかの女性の名前を私の前で何度も呼ばないでくださる?」
少し苛立ちを感じても、セルベル子爵家の娘としては声を荒げる事は絶対に許されない。微笑みながら首を傾げて、イェルハルドに静かに訴える。
「あ。ああ、申し訳ないね。ロヴィーサ」
頬を紅潮させたイェルハルドが私の青緑の髪の一房に口付ける仕草は、いつもよりも優しいものだった。
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