最終話 届かない月を掴む

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 今まで前世を思い出すことを拒んでいたのは、前世の私のままだったら、ガブリエルはまた妹としか見てくれないとわかっていたから。生まれ変わって完全に別人になることで、ガブリエルは私を女として見てくれるようになった。自分のしたたかさに笑うしかない。  前世の私の願いが叶って、ここからは今の私の願い。 「ガブリエル、何か物凄くすっきりした!」 『それは良かった』  ガブリエルが明るい笑顔を見せて、私の唇に迷わず軽いキスをする。ガブリエルの綺麗な青い瞳には私しか映っていない。まっすぐに見つめ合ってから目を閉じると、熱いキスが降ってきた。頬が火照って熱い。  目を開くと、ガブリエルの恥ずかし気な微笑みに鼓動が跳ね上がる。 「ね。お腹空いたから、うどん食べに行きましょ! 私は月見うどん!」 「行こう。私はきつねうどんがいいな」  照れ隠しに笑いながら楽器を片付けて立ち上がると、そっと手を繋がれた。  並んで見上げる夜空に白い満月が浮かんでいる。前世で見た異世界の空には、赤と緑の月、そして小さな白い月が浮かんでいた。  少し物足りない光景に、私は微笑む。  ここは、前世の私と今の私が望んだ世界。  ――私は、ようやく一番欲しかった幸せを手に入れた。
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