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1話 オバ魔女学校へ行く(準備)
今回は皆さんに一人の魔女の物語をお話ししよう。
ん? アンタは誰だって? 私は語り部、この物語の紡ぎ手だ、自己紹介を終えたところで最後までお付き合い願おう。
「まさかこの歳で学校にいくなんてねぇ、人生何があるか分からないものね」
そう呟やき何やら準備をしている女性。つばの広い三角帽子をかぶった女性。
歳のころは四〇半ばを過ぎた辺りに見える、ようするにオバちゃんだってことだ。
肩まで伸ばした黒に近いグレーの髪、少し太めの眉毛と青い瞳、決して美人ではないが見る人に安心感を与える容姿、人の良さそうなオバちゃん。
彼女の名前は『アンジェリカ・アジャルタ』残念なことにこの物語の主人公だ、このような物語の主人公と言えば美男美女と相場は決まっているが、この物語の主人公は夫に先立たれた、普通の容姿の普通だったけど普通じゃなくなったオバちゃんが主人公だ。
「なんだこれは? こんなものはイランであろう、何故学校へ行くのに鍋とヤカンが必要なのだ?」
「なんとなくよー」
「なんとなくで荷物を増やすな」
尊大な口調の魚の尻尾……上半身が魚の尻尾で下半身が魚の尻尾、手はワカメで足は串という、何とも言えない容姿の化け物がアジャルタに注意を促す、彼……でよいのか? まあ、彼は『リヴァイアサン』アンジェリカが召喚した使い魔である。
使い魔がいて、つばの広い三角帽子を被ってることからもわかるように、このオバちゃんことアンジェリカ・アジャルタは魔女である。
まあ、魔女と言っても最近自力で魔女になったペーペーであるのだが……さらりと言ったが、実は自力で魔女になるのはかなりのレアケースだ。このオバちゃんは相当強力な素質を秘めていたようだ。
そのぺーぺーが魔女についてを学ぶために、学校へ行くことになったのだった、それがこの物語の始まりである。
「そうそう、そうだわー、お近づきのしるしに先生方にイワシのパイを焼いていこうかしら?」
「え? ええい! アレはいかん、絶対にやめておけ!」
イワシのパイと聞いて戦慄する魚の尻尾、そして魚の尻尾に説教されるオバちゃんであった。
「そうかしら? あのパイは息子にも大不評だったのよ?」
「いや、だから何で不評な物を渡すのだ?」
「なんとなくよー」
困ったことにこのオバちゃんは何故か『何となく』で物事を進めたがる、あと何となくで嫌がらせするのはいかがなものか?
「でも、アレねあれあれ」
「アレじゃわからん」
「んー、アレなのにねぇ」
アレである。うん、わからん。
「アレね、幾つになっても、新生活はワクワクするものねぇ。友達一〇〇人できるかしらねぇ?」
「知らん、頑張ればできるんじゃないか? ただイワシのパイでは絶対に友達は出来ぬと思うぞ」
「残念ねぇ」
そもそも四十超えて学校に通うことは相当に稀である、しかも魔女学校である普通に考えればマトモな学校なはずはない。
そしてギャーギャー言いつつも準備は進んでいった。
――
――――
そして、次の日。
「ここが魔女学校かしらね?」
「そうなのではないのか?」
アジャルタの眼前に広がる木造の建物、思ったよりは古臭い建物ではなかった。
ここはアジャルタの住む港町から、馬車で二〇分ほど森へと向かった魔女の村にあった。
「魔女の村にあるのだし、多分そうよねぇ?」
「ぱっと見、それっぽそうな建物はここだけだから、ここであろうな」
アジャルタが懐中時計を取り出し、時間を確認する。
この世界では時計は高級品だ、アジャルタの時計は夫の形見でもあった。
「時間には間に合ったみたいね」
時間を確認するアジャルタ、時間は守らないとね!
「ところで、気になっておったのだが……何故、釣り竿と籠を持っておるのだ?」
「知らないわよ、だって持ち物に棒のようなモノって書いてあったんですもの、うちにあった手頃なのがこの釣り竿だったのよ」
「そ、そうか」
港町に住むアジャルタの家には、割と沢山釣り竿が置いてあるのだった。
そんな話をしていたら、人が建物から出てきた。
黒いローブを着た女性であった。まあ、十中八九魔女だろう。
「えー、アンジェリカ・アジャルタさんですね、メルリカ先生から話は聞いています」
「ええ、そうよオバさんがアジャルタよ。オバさんでごめんなさいねー」
別にこの人、オバさんだからどうとか何も言ってない、アジャルタ式オバさん挨拶である。
女性は二〇代後半くらいに見えるが、相手は魔女である見た目通りの年齢ではないだろう。
メルリカとは港町で偶然知り合った魔女で、アンジェリカに魔女学校を薦めた魔女学校の教師である。
「あ、いえ。おそらく、私もそこまでアジャルタさんとは変わらないと思いますよ」
「あら? あらあら、お若く見えるのね」
「あ、魔女ですから……」
あらあらの多いオバちゃんである。迎いで来た魔女は魚の尻尾を見ると、渋い顔をしてアジャルタに尋ねるのであった。まあ、普通はあんなのがいたら訝しがるのは当たり前だよね。
「えーっと、そちらのどう見ても魚の尻尾は何でしょうか?」
「む、あまりにもストレートな表現であるな、我はリヴァイアサン、今はそこの主であるアジャルタの使い魔をしている」
「そうなのよー、このあいだ使い魔を召喚したのよ」
「そ、そうですか」
若干引き気味であった。そして魔女がアジャルタの方に向き合う。
「では、こちらへ、教室まで案内します」
「はいはい」
アジャルタ達は魔女に連れられて教室へと向かうのであった。
「さあ、オバさんの新生活の始まりよー」
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