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その日も、いつもと変わらない、ただの日常が過ぎていくはずだった。
終礼のチャイムが鳴り、にわかに教室全体が騒がしくなる。放課後どうするか、今日の部活は、などと話の尽きない様子のクラスメイトをよそに、私は教科書を学校指定の鞄へ詰めて席を立つ。
出入り口のドアへ向かう間に、じっとりとした視線を向けられるが、それはいつものことで、視線から逃げるように俯いて教室のドアを潜った。
下を向いていれば余計なものを見ないで済む。
長く伸ばした髪で、見たくないものを隠すようにして、視界を遮って歩く。
この髪は、見たくないものを隠してくれると同時に、私の“家”のことをいつでも私に理解させる、そんなものだった。
私の髪は、生まれつき頭から灰を被ったような薄墨色で、毛先に行くほどに黒く、根元は銀色のように白くなっている。これは私の家系独特のもので、お父さんも兄さんも、個人差はあれど同じようにグラデーションになった髪をしていた。
これは大切な家の象徴だと言って両親も教師へ説得をしていたが、教師陣も私の髪にいい印象を抱いてはいないようだった。何かにつけては注意をしてきたり、呼び出しをされることも少なくはなかった。
教師たちからも白い目で見られ、クラスの中でも、いや、学年の間でも浮いた存在の私に声をかけるような物好きな生徒はおらず、当然の如く、学生生活のほとんどを一人で過ごしていた。
でも、私に課せられた使命をこなすためには、この生活を続けるほかなかった。
寂しいかと問われると、わからない。
これが、この生活が、私にとっての当たり前であり、日常であったから。
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