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家についてから、いつものように身支度をする。礼装へと腕を通し、髪を後ろで一つに縛る。兄さんはまだ帰ってきていない。家の中はしんと静まりかえっている。
支度ができたら家を出て、社殿へと向かう道を進んでいく。冷えた風が、頬に強く吹きつけてくるのを感じた。今日は、少し風が強いようだ。ざわざわ、と境内に植えてある木々たちがどこか不安げに揺れているように感じる。
社殿の入り口では、お爺様がいつものように顔を顰めて待っていた。
「遅い。もっと早く来られないのか」
「……申し訳ありません」
フン、とお爺様は鼻を鳴らし、奥へ早く向かうようにと顎をむけた。
斎主として私が祝詞を奉じ、いつもと同じ、変わらぬ信仰心を捧げることが私に課せられた重要なお役目。春も夏も秋も冬も同じ。ここで祀られている神様に安らかに眠っていただけるように、絶え間ない奉仕をする。
学校に行っている以外のほとんどの時間を、私は奉仕に捧げていた。
祝詞を奉じ終えると、次は神楽を舞う。一瞬静かになった社殿に、ガタガタと板戸へ吹き付ける風の音が広がっていた。
手に鈴を持ち、一礼してから立ち上がる。後ろで控えている斎員──史隆くんや平野くんのお姉さんであるみのりさん──が動く気配を感じ、すぅ、と深く呼吸をする。
厳かな笛の音が流れ始めるのと同時に、シャリン、と鈴を振るう。神様に届くようにと、一歩一歩踏みしめて。
シャリン、シャリン
いつも通りの動きでも、いつもと変わらず、ただ神様に捧げることだけを思い神楽を舞う。
シャリン、シャリン
──いつもと変わらない、私の日常が過ぎていくはずだった。
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