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「社長!それでは、ちょっと投影しますので、用意をお願いします」
ユニコの言葉にラットンは受話器を広く白い壁に向けてチェストの上に置き、再びソファに腰を下ろした。
受話器の受話口(耳にあてる側)の中央からコバルトブルーの光束が発射され、白い壁の前に立体映像を投影した。
そこには赤いネクタイとグレーのスーツ姿で、短い1本の角を持った小鬼人族のユニコ部長が映し出されていた。
「えー、コホン!・・・実はメランゲ・パーニ家には多額の借金がありまして・・・今、その返済が滞っていて、彼女たちは屋敷を出ざるを得なくなってしまったのですよ」
ユニコは頭の角にかかる銀髪を気にしながら話し始める。
「ほう、借金の額はいくらですか?」とラットン。
「2000万ポタ(約4000万円)です・・・利息も含めて一か月後までに2100万ポタ(約4200万円)を返済しないと・・・そのまま屋敷は没収されてしまうのです。それでまずは遺産が見つかる一か月の間はグラージェナ夫人と二人の娘さんの生活を保障する必要があるのですが・・・」
ユニコはやや歯切れが悪かった。
「ですが・・・?何か大きな問題があるんですか?」さらに問いかけるラットン。
「・・・ちょっと言いにくいのですが、グラージェナ夫人はかなりの食通でね?・・・夫が亡くなった後は節約していると言っていたのですが・・・何しろ1食に10万ポタ(約20万円)くらい平気で費やすということなんでね?」
「うむむ!・・・一食10万ポタ?!・・・僕らの三か月分の食費に匹敵しますねー」
そのやりとりを聞いていたミアアは大好きなお魚カチオ節かけご飯を思い浮かべ、思わずよだれがタラーッと垂れてしまった・・・そういえば、昨日の夕飯以降はお茶を飲んだだけだなぁ・・・グスン(涙)・・・お腹空いた・・・そういえば、ラットン君の首筋って弾力があって美味しそうだったなぁ?・・・エヘヘ・・・ゴクッ!
ミアアが獲物を狙う鋭い目でラットンの方を見たので、ラットンは思わず足先から頭のてっぺんまで悪寒が走った。
「ぶるるるるっ!!」
───その緊張感を破るようにソファから立ち上がったグラージェナ夫人が口を開いた。
「ええ、わかっています。屋敷を出ざるを得なくなってしまったのですもの・・・今日からは心を入れ替えて節制しますわ!」
(ホントカナ~??)
夫人の発言にラットンとユニコは口に出さずとも首を傾げた。
ところで、グラージェナ夫人はかなり背が高い。
だいたい2.1メルトル(約1.9m)くらいで、二人の娘も1.9メルトル(約1.75m)はある。
加えてグラージェナ夫人はかなりふくよかなので、巨体族を思わせるものがあった。
(巨体族の血を引いているのかニャ~?)
改めてグラージェナ夫人の背丈に目をみはったミアアは、とりあえずよだれをひっこめた。
ミアアの背丈は1.72メルトル(約1.55m)くらいである。
「まぁ、そんなわけで」
ユニコがいきなり話をまとめだした。
「グラージェナ夫人と娘さんたちは、そこのアックズさんの家でしばらく生活して頂けるように、アックズさんに私のほうから頼んでおきました」
「なるほど! そうだったんですね? それは話が早い!」
ラットンはユニコの手回しの良さに感心した。
アックズは巨体族なので、彼のこの家もかなり大きいのだ。
1階の居間の天井の高さは優に4.4メルトル(約4m)はあるし、客用のダブルベッドも長さ
3.3メルトル(約3m)はある───彼は独身だが、家の間取りは中2階のロフトも合わせて3LDKである───ミアアとラットンは二人でロフトの部屋を間借りしていたのであるが・・・
「今、帰った」
唐突に入口の扉が開かれると、のっそりと巨大な人影が現れた。
この家の持ち主───巨体族のアックズであった。
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