ある午後

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ある午後

 僕が彼女の瞳に心底惚れ込んでしまったのは、ある午後の授業の時だった。あの時のことは鮮明に覚えている。なんてったって彼女があまりにも綺麗だったから。  その日は春の日差しがぽかぽかしていて、外で大の字に寝転びたくなるような、心地良い日だった。彼女は隣の席でうとうとしていて、時折その細い首をかくん、と傾けていた。授業がもうあと5分、というところで彼女は目が覚めたみたいだった。目が覚めたのが分かったのは、彼女の姿勢がふいにしゃんと伸びたからだ。とは言っても確信はなかったのでちらりと彼女のほうを横目で見た。  まっすぐ前を見る彼女の瞳は春の日差しを浴びて輝いていた。まるで宝石みたいで、たしか、チョコレートなんとかっていう珍しい宝石があったなあなんて思いながら、気付けば僕は彼女のほうに顔ごと向けていた。  慌てて顔を前に向けなおすと、それに気づいた彼女はくすりと笑った。それがなんとも可愛くて、印象的で、残り僅かになった授業にはあまり集中できなかった。
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