必要な物

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『それがさ………。先輩が例の総務の彼女連れて行くの?って聞いて、彼女じゃないですよ。口説いてるとこなんでって。』 「……………。」 『……は?どういう事?』 『いや、ごめん、だから別れたのかな、付き合ってなくて、実は2か月前から付き合いだしたのかなって。会社じゃ顔見ないし聞けないし、つい。ごめん!』 「いや…………うん、大丈夫。ちゃんと……話すし。」 ーーーーーーー 真っ白な頭の中でなんとか言葉を紡いだ。 楽しい話題も頭に入らず、うんうん返事だけをしている間もメールは鳴る。 大丈夫?とか間違いだよとか、二人が心配する中、返事を返せないでいるとメールの音が止んだ。 30分程してまたスマホがピコンと音を鳴らした。 目を落とすとそこには真ちゃんの名前が出て、慌てて携帯を顔の前に持ち上げて見た。 パソコンの向こうからなんだ、どうした?緊急か?とか声が聞こえても気にしないでメールを開けた。 ーーーーーー 『残業まだ続くわぁ。昨日も今日も会えないってきついなぁ。明日は行くから美味しいご飯よろしくな?』 「うん!お疲れ様。まだ会社?無理しないでね。」 ーーーーーー おやすみのスタンプが押されて返信が終わる。 それだけでも嬉しいと笑顔をパソコンに向ける。 『なに?彼氏?帰るって?落ちる?』 伊藤に聞き返されて首を振る。 「ううん、残業大変だって。来ないよ。大丈夫。」 『それは良かった。あれ?いいのかなぁ?』 ドッと笑いが起きた瞬間、誰かの部屋でインターホンが鳴る音が聴こえた。 誰?宅配?などと口々に言っていると、橋本が慌てだしてパソコン前に置いたグラスを倒した。 『きゃぁ!ごめん、ティッシュ!少しで良かったぁ!あ!』 慌てて拭いて、拭くのも途中で彼女は後ろのガラス戸を開け、まっすぐに見える玄関に走る姿がカメラに映し出された。 一瞬の出来事だった。 全員が無言でそれを見ていた。 閉まっていた鍵を開ける音がパソコン越しにもしっかり聴こえて、空いた玄関ドアから靴を脱ぎながら何故か田畑主任の姿が見えた。 『マジ疲れた!京子〜。今日連れて行かれた懐石の店美味かったよ。今度一緒に行こうな?今日泊めて。』 『ちょ………今日は来ないでって言ったじゃん!』 『はぁ?何で彼氏を追い返すかな?向こうには行かないって伝えてあるし気にする事ないって。』 押し返す橋本京子をさらに押し返してパソコン前にどかっと座った。 シーンとした沈黙が流れて、田畑真一はパソコン画面に映るみんなに気が付いた。
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