あの時の言葉

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あの時の言葉

優しく髪を撫でる暖かい手の温もりと… 部屋の照明の眩しさで優也は目が覚めた… 「う…うーん…ジュルッ…あっ!!」 後頭部に人肌の温かさと柔らかさを感じた彼は咄嗟に飛び起きた。 「キャッ!!」 「ゴ、ゴメン…ナギさん…長い間… その…重かったでしょ…⁉︎ 何て言ってお詫びしていいか…」 バツが悪そうに肩をすくめる優也にナギは微笑んで 「いいえ…とっても嬉しい時間でしたよ… 優也さんが私の側にいて下さったから…」 「そ、そう…⁉︎ あっ、そうだ…これ…」 ナギは手渡された紙袋から緑色のルームウェアを取り出した… 「わぁ…」 「さっき…一緒に夕食の用意を買いにスーパーに寄ったでしょ…? その時に買っておいたんだ… ナギさんのお洋服も汚れないようにね…」 「そんな…着替えはすぐ帰って済ませてこれますから大丈夫ですのに… でも…本当に嬉しいです…ありがとう…優也さん…」 少し寝ぼけ気味の優也は無邪気に笑うあまりに美しいナギの表情にドキッとして… 「お、お風呂にはいらないとね…急いでお湯を入れるよ…」 慌ててお風呂場の方へ向かって行った。 ピチャッ…チャプン… …ふう… 暖かい湯船に浸かってさっきの優也の寝顔を思い出す… 「ウフフッ…」 頰が紅潮しているのはお風呂に入っているからだろうか…それとも… ナギはとっても幸せな気持ちに包まれていた… ナギがお風呂から上がって髪をタオルで拭いていると優也の声が聞こえてきた… どうやら電話の会話のようだ。 「…うん…ゴメンよ… ティナは良いって言ったんだけど…」 「そうだったの…知らないとは言えティナさんに悪い事しちゃったわね… 今度会った時にキチンとお詫びするわ…」 「い、いいよ…そんな事したらまたティナが気を遣うから… 母さんは悪く思わないでくれたらそれで…」 「馬鹿ね…そんな事…思う訳無いわよ!! 私だってチーズが苦手だもの… 誰だって苦手な物があるわよ… じゃあ…面倒かけるけどお願いね…」 「ああ…明日、出勤前にコンビニから送るよ… じゃあ…」 優也はスマホの画面をタップして通話を終えた… 「お母様とお話しされていたのですか…?」 「ああ…らっきょうを返そうと思ってね… 流石に数日で全部は…」 「そうですわね…でも…ティナもお母様も… お互いに少し心苦しいですわね…」 「そうだね…」 「やっぱり…結婚って大変ですね。 私…夢の部分だけ見ていたのかもしれません…」 目を伏せるナギ… 「あはは…でも…みんな手探りなんだよ… そうやって苦労して得たものが本当に大切なんじゃないかな… 正解ばかりじゃなくて失敗も後から見れば良い思い出だよ… ティナとウチの母親だってこういう事を重ねて分かり合えるんだ…みんな同じさ…」 ナギはジッと優也の顔を見つめていた… 「ど、どうしたの…⁉︎」 「やっぱり…優也さんは凄いです… 私なんかまだまだ…」 「そんな事…ねえ…ナギさんがジュエラ王宮のベッドで僕に言ってくれた事…覚えてる…⁉︎」 「私が…優也さんに…⁉︎」 「そう…あの時、君はこう言ったんだ… 『本当に決意しなくてはいけなかったのは優しいあなたを手に入れる事では無くて私自身が優しい心の持ち主になる事だったのです。 獰猛な獣に力じゃなく、心で理解してもらうなんて…きっと何倍も難しい…けれど、私はあなたのようになりたい… そうして王族として国民の信頼を得て行くつもりです。いつになるかは分かりませんが、もし…それが出来た時は…少しだけ私の事を…その…ほ、褒めてもらえますか…』 …ってね」 「…あっ……」 ナギは優也の言葉を聞いてあの時の気持ちを思い出した…
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