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「こんなもん?」
「ああ。助かった」
「おはよー!あれ、藤宮さんってこんな雑用もするんだ」
「仕事だからな」
資料を纏めているうちにクラスメイトたちは続々と登校し、終わる頃には辻浦が完成した紙束をめくっていた。
運動部は力仕事もあるらしいし辻浦は体育祭準備の記述をみて、眉を歪めた。ちなみにオレは帰宅部なので特にやることはないが家庭部の手伝いでもしようかと思っている。アニキ…いや部長に頼まれたしね。
「うわ、テント作るんだ。面倒な仕事だな」
「え、バスケ部テント作るの?あれ遠目で見ても大変そうだよね」
「そうそう。真城も手伝ってくれてもいいんだけど?」
「見ての通り」
オレは華奢まではいかなくても全くスポーツなんてしてませんよという見た目をしているし、体力だって殆どない。足手まといにしかなれないだろう。
辻浦も力こぶのない二の腕を見て溜め息を吐いた。普段もやしだのエノキだの言ってる癖になんて奴だ。
辻浦が項垂れ、オレがその姿を睨んでいると黙っていた藤宮が資料を封筒に入れながら言う。
「真城には風紀の仕事を手伝ってもらおうと思っている」
「え、初耳」
「行事はいつも人手が足りない。真城は風紀のメンバーをよく知ってるから適任なんだ。難しいなら断ってもらって構わない」
「別にいいけど…家庭部に手伝うって言っちゃったんだ、両立出来そう?」
「当日の手伝いをして欲しいんだ。事前準備はこちらでする」
「なら大丈夫。運動部への差し入れ作るだけだから」
「そうか」
藤宮は少し表情を和らげた。よっぽど人手が足りないんだろう。風紀にも甘い物を差し入れしようかな。姫石先輩とか喜ぶかも。
自席に戻り朝学習の準備をしていると辻浦がボソボソと耳打ちしてきた。待て、くすぐったいから離れてくれ。
「藤宮さんとほんと仲良いよな」
「まあ三年間同室だったしね」
「藤宮さんがあんなに喋るの真城だけだろ」
おれだって仲良くなりたいのに、と辻浦は口を尖らせる。別に人見知りする奴じゃないし人嫌いってわけでもないから普通に仲良くなれると思うんだけどなぁ。付き合いの長さ的にオレのが親しげに見えるだけで。
「二人の時だと会話が十秒くらいで終わるんだよ」
「藤宮は口下手だから…」
「なるほど?じゃあどうやって口下手な藤宮さんと真城は仲良くなったんだ?押して押して押し倒した?」
「どうやってって…」
藤宮と出会ったのは中等部の入学式の後。寮の同室が藤宮と知ったとき、それはもう驚いた。とても格好よくて。
窓から入る陽の光が藍色の髪を透かし、澄んだ瞳は静かに凪いでいた。こんな綺麗な男がいるのかと思わず息を飲んで、それから。それ、から?
おやややぁ?
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