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扉越しに小声で聞くと
「センセ、開けて?」
そう女の声がしたので、古いドアの鍵を捻り、扉をそっと開けてみる。
見覚えのある女が立っていた。
「リンか?」
そう聞くと、彼女は頷く。
「誰にやられた?」
「五星の息子」
コートの下の着衣が乱れ、顔にも傷を負っている彼女を部屋へ入れ、一度廊下を見渡して鍵を閉める。
ストーブの近くに置いてある丸椅子に座るように促すと、壁際のシンクに立ち、念入りに手を洗う。
「良かった。センセが居てくれて」
「髪が短くなってたから、一瞬誰か分からなかった」
本来、料理をするためのスペースも、向かいに置かれた細長いテーブルの上にも、さまざまな液体や薬品、ガーゼ、包帯などの資材、ビーカーに立てられたピンセットやメスなどの医療用具が並んでいる。
消毒液と綿棒、ピンセットと小さく切ったガーゼ、包帯や絆創膏を用意すると、彼女に向かい合う。
羽織っていたコートを脱ぐと、破れたブラウスから肩が剥き出しになった。
スパッツの上に履いているミニスカートも、ウエストの辺りが破れている。
右の頬骨のあたりが切れて、数本の血の筋がついていた。
顔を叩かれたらしく、左の頬は少し腫れている。
消毒液を付けた脱脂綿で血を拭ってやり、乾いたところで薬を付ける。
腫れた頬に、そっと手を当てて様子をみる。
「口の中は切れてないか?」
「大丈夫みたい、血の味はしないから」
「それほどひどく腫れてはないから、たぶんじきに引くだろう。少し冷やした方がいいな」
大きめのボウルに水を張り、小さいタオルを濡らす。
ぎゅっと絞ったタオルを彼女に手渡した。
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