1 真夜中の客

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手に負えない場合は、できるだけの手当をしておき、次の日の昼に自分の勤務先へ来るように言う。 それで、今夜の彼女のような客が、たまにこの古アパートにやってくる。 「他に痛いところはないか?」 「壁とかにぶつけたところがあるけど、それほどでもない」 「頭を打たなかったか?」 「うん」 「それなら大丈夫だろう。アイツがスポーツマンじゃなくて良かったな」 「でも、今日は力尽くで抱き落とそうとしたわ」 彼は席を立って、使った資材を片付け始めた。 「目を付けられているのは分かってた。  最初は紳士的に手に入れようとしてたけど、私がなびかなかったから、実力行使に出たみたい」 背を向けた彼に、昔からの知り合いのように言う。 「この前店に来たとき、ずっと相手をさせられたの。  あんまりウザかったから、席を立とうとしたら髪の毛を捕まれたの。  だから、ばっさり切ってやったのよ」 ストーブの上で、しゅんしゅんと音を立てていた薬缶から、紅茶のティーバッグを入れたカップに湯を注いだ。 近くにあった小皿を乗せて蓋にし、しばらく蒸らす。 「今日は早番だったから、店が終わって外に出たら、あいつの取り巻きが二人立っていて、そのままホテルに連れて行かれたわ」 小皿を外して、ティーバッグを取り出すと、カップを彼女に渡した。 「店を辞めて、俺の女になれって。  嫌って言ったら、ベッドルームへ連れ込まれそうになって…」 彼はテーブルの端に軽く腰掛け、自分用に入れた紅茶のカップに口を付けながら話を聞く。 「抵抗したら、この有様よ」 顔を殴られ、服を破られた。 「よく逃げられたな」 「本当はやりたくなかったけど、他に方法がなかったから、股間を蹴り上げた」 その様子を想像して、クククッと笑ってしまった。 「そりゃあ、大変だ」 「悶絶している間に、逃げてきたの。外に見張りがいなくて助かったわ」
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