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手に負えない場合は、できるだけの手当をしておき、次の日の昼に自分の勤務先へ来るように言う。
それで、今夜の彼女のような客が、たまにこの古アパートにやってくる。
「他に痛いところはないか?」
「壁とかにぶつけたところがあるけど、それほどでもない」
「頭を打たなかったか?」
「うん」
「それなら大丈夫だろう。アイツがスポーツマンじゃなくて良かったな」
「でも、今日は力尽くで抱き落とそうとしたわ」
彼は席を立って、使った資材を片付け始めた。
「目を付けられているのは分かってた。
最初は紳士的に手に入れようとしてたけど、私がなびかなかったから、実力行使に出たみたい」
背を向けた彼に、昔からの知り合いのように言う。
「この前店に来たとき、ずっと相手をさせられたの。
あんまりウザかったから、席を立とうとしたら髪の毛を捕まれたの。
だから、ばっさり切ってやったのよ」
ストーブの上で、しゅんしゅんと音を立てていた薬缶から、紅茶のティーバッグを入れたカップに湯を注いだ。
近くにあった小皿を乗せて蓋にし、しばらく蒸らす。
「今日は早番だったから、店が終わって外に出たら、あいつの取り巻きが二人立っていて、そのままホテルに連れて行かれたわ」
小皿を外して、ティーバッグを取り出すと、カップを彼女に渡した。
「店を辞めて、俺の女になれって。
嫌って言ったら、ベッドルームへ連れ込まれそうになって…」
彼はテーブルの端に軽く腰掛け、自分用に入れた紅茶のカップに口を付けながら話を聞く。
「抵抗したら、この有様よ」
顔を殴られ、服を破られた。
「よく逃げられたな」
「本当はやりたくなかったけど、他に方法がなかったから、股間を蹴り上げた」
その様子を想像して、クククッと笑ってしまった。
「そりゃあ、大変だ」
「悶絶している間に、逃げてきたの。外に見張りがいなくて助かったわ」
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