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「あ・・・あの母です。」
「ああ、母さん、俺の上官で下佐の・・・。」
「お母様でいらしたのですか。いつもお世話になっています。
アメダイーといいます。」
「いいえこちらこそ。息子がお世話になっています。」
「じゃ、私はこれで・・・。」「あ・・・お疲れ様です・・・。」
彼女が立ち去ると、チヘンネは早速質問してきた。
「綺麗な人ねえ。どう?ああいう人?。好みなの。」
「いや、俺のタイプじゃないし、勘違いするなよ。・・・で、
なんだよ、用事って。」
「家に家宅捜索が入った事、ニュースでやってたのよ。何か
参考になるかと思って。」
「ああ、今朝のあれか。」
ティターンの防衛庁舎内にある宿舎に暫くは逗留する事に
なっていた。そこでノートパソコンを開き、ネットに接続する。
家宅捜索のニュースはそんなに詳しく報道されず、手がかりに
なるものは何もなかった。それよりも、寧ろ家宅捜索に失敗し、
逃亡したという事が前面に出されている。
父チリカワが丁度部屋に入って来た。「早速観てたな。」
どうやら何を観ていたか気付いたようだ。近づいて三人で
画面を覗き込む。
「・・・親父が変な魔法なんか使うから・・・。」
「じゃあ、お前はチヘンネを助けだす術はあったのか?。」
「い、いや、それは。」
やはりただの偶然なのだろうか。今回のテロ事件と宗教団体
ナバホ=ダコタ、そしてそこの所属していると思われる元
同期の軍人WA‐W11VARーSYーUKA。無意識にポケットを探る。
「あ・・・そうか、そうだった。」
煙草を探そうとする癖が抜けていないようだ。忙しくて気に
掛けている暇はなかったがそろそろ禁断症状が出てくる頃
だろう。どうやって気を紛らわすか。仕方がないので
その場で自主トレでもしようと腹筋運動を始めた。
ユーリウスが煙草に手を出したのはいつの事だっただろうか。
生活の為、学校を中退し軍人になった。自分は生活を支える為
大人達に混じって働かなければならないのに対し、同い年の
クラスメイト達は学生生活を満喫している。
「俺は、あいつらのような子供じゃない。」
ユーリウスにとって喫煙は「大人の象徴」だった。そうすれば
早く大人になれる。それが煙草に手を出すきっかけだったの
かもしれない。だが、今は違う。今の自分にとって煙草は
「逃げ」の象徴だ。現実と向き合い、自分に課せられた使命を
全うする。この大陸が滅びを迎えるまでにやるべき事はたくさん
ある。
いつの間にか外は暗くなっていた。暗闇の空に月だけが
ぽつんと浮かぶ。その月明かりに導かれるように中庭へ出た。
何か気配がする。「ティマイオスか。」
「ここに居たのか。」暫く沈黙が流れる。
「怖いとか、悲しいとかないのか?。間もなく大陸と共に
滅びる事が・・・。」
「神には、人間のような感情は無い。だがな。願わくば生まれ
変わってまたこの惑星に生を受けたい。私も、そしてこの大陸の
全ての生命達と共に。そう思っている。」
「一つ聞いてもいいか?。」「なんだ?。」
「親父が言っていた、『未来人』の事についてなんだが。
そいつは惑星衝突を回避する為の人物って言ってたな、と
思って。結局その未来人は惑星を回避できたのか?。」
「恐らく、その未来人こそ、惑星を回避できる救世主では
ないかと見た。だが、以前も言ったとおり、アトラテックの
者ではなく、異大陸の者。そしてその一人が持っていた
遺伝子とやらがそなたと同じだった。あの建物の爆発で
そなたに触れた時、それを感じた。そこでこの者は運命を
与えられた者に違いないと確証した。」
「俺と同じ・・・どういう事なんだろう。」
「せめてアトラテックの者であれば彼等の正体は分かったの
かもしれない。
だから、救世主なのかどうかはどうしても読み取る事が
できなかった。だだ彼等未来人の出現で分かった事。それは
彼等の時代にはアトラテックは存在しない事。私は巨大惑星の
衝突の前に滅びてしまう事を。」
人間なら涙やため息をつきながら話すことなのだろう。
絶望ともいえる今の気持ちを感情が無い分淡々と話している。
まっすぐ前を見ているテマイオスは差し詰め死を目前にし、
死と向き合おうとする末期の不治の病を抱えた人に見えた。
死ぬってどういうことなんだろう。これは人間でも生きて
いる以上分からない。ましてや長き時を生き永らえる神で
あるなら、自らの末期など考えた事はないのだろう。
「月か・・・。闇を抑えるために僕として引力に曳かれて
きたはず。だが、皮肉にも今回闇を生み出す原因を作って
しまうとは。不本意ではあっただろう。運命とはなんと
残酷なものだろう。」
「運命か・・・。」
「暫し眠りにつこう。そなたが私を必要とするならその時は
駆けつける。」
そう言ってティマイオスは小さな宝玉になった。ユーリウスは
それを拾って、宿舎のベッドの側に置いた。
「そういえば。」
思わず口に出してしまった。大陸神ティマイオス・・・。
ずっと気にかかっていた事があった。たった一度夢で見た事
なのだが、あの時夢に出てきた、不思議なオーラを身に纏った
者こそがティマイオスだったんじゃないか、そう思えて
仕方がなかった。
そしてティマイオスが叫んでいた名こそ「ロナウハイド」
だったんじゃないか。じゃあ、あれはあれは予知夢だったのか?。
だとしたら何故そんな夢を見たのか、ロナウハイドの名は、
その夢を見たあとに父に着けられた。ティマイオスは
自分がそう名付けられるのを知っていたのか?。いや、
そんなはずは・・・。
じゃあ、誰がそんな夢を見せたのか、ただ分かって
いるのは、ティマイオスが自分を「見つけた。」と言った
あの日の昼間に見た夢だ。
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