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よく観ると、UPE-HE‐6G上尉はこめかみにうっすらと汗を
かき、僅かに震えている。どうやら呼吸も荒くなっている
らしく、両手の拳をぎゅっと握り締めている。
「I-KUB-AYA202上佐から『WA‐W11VARーSYーUKAについて
教えてやって欲しい』って言われて来た。だが、まさか
VAU-HE-1D上尉が居るなんて思ってもみなかった。」
「それはどういう意味だ?。何故VAU-HE-1D上尉がここに
いるわけ無いと思った?。」
「た・・・退役、したって聞いてたから・・・。ここには
もう・・・。」
「それだけか?。」「そ、それ、だけ・・・です。」
すると長官が立ち上がって言った。
「私はVAU-HE-1D上尉が退役したとは一度も発表していない。
極秘の情報だが、VAU-HE-1D上尉のデータを全て消去は
したがな。」
「け、けど・・・皆がそう言って・・・。」
「噂に左右されるのか?。上尉とは随分仲良くしていたと
いうのにそんな事で確かめもせずに縁を切ってしまうのか。
冷たいな。」
「・・・ちっ、違う・・・。お、俺はVAU-HE-1Dがテロ
行為をしたって事で国家警察からマークされていた。それで
ここには居られなくなって退役したんだと・・・。」
「お前は、VAU-HE-1D上尉がテロをするような反社会的な
人間だと思っていたのか?。」
「そ・・・それは・・・。」
「信じてやれなかったのか?、VAU-HE-1Dを。」
UPE-HE‐6G上尉はもう話すことができないようだ。
ユーリウスは、
「俺から言わせて貰う。信じる信じないよりも、何故お前は
答えられないか。それは・・・VAU-HE-1D、ユーリウス・
ヴォルフガングの個人情報を流出させたのがお前自身
だからだ。」
UPE-HE‐6G上尉は驚きを隠せない。
「・・・ど、どう、して・・・分かった?。」
ユーリウスはポケットから一個のライターを取り出した。
「以前、I-KUB-AYA202上佐の私邸に集まってホーム
パーティーした時のこと。覚えているか?。」「・・・。」
「こいつ・・・お前は忘れているかもしれないが、これは
俺の誕生日に母さんから貰った物だ。その時、これを見て
お前は俺の誕生日について聞いてきたな。そして俺の本名が
生まれ月である七月、つまり『ユーリ』からきた事を説明
した。そう言ったらお前は『来年のお前の誕生日には本名で
祝ってやる』そういって俺の名前をメモしていたよな。
この駐屯地内で俺の本名を知っているのはごく限られた
人物だけ。消去法で消していったらお前が当てはまったって
訳さ。」
UPE-HE‐6G上尉は躊躇っている。暫く黙秘を通していたが、
「・・・す、すまなかった。」と、ユーリウスの前で膝を
床に着いた。
「奴、WA‐W11VARーSYーUKAとは一月ほど前に町で偶然再会した。
宗教団体に入っているって言ってたんで、余り関わらない
方がいいなと思ったが、その後どういう訳か個人持ちの
携帯端末機を失くしてしまったんだ。そいつには他の友人の
情報なんかと一緒にそん時のVAU-HE-1Dのメモ機能なんかも
入っていたんだ。すぐに気付いて返してくれるように頼んだが、
逆に、それをネタに金を請求され、VAU-HE-1Dの情報までも
流してしまった。元々WA‐W11VARーSYーUKA、ワナギースカは
VAU-HE-1Dの事を良く思っていなかったらしく、VAU-HE-1Dの
名を騙り、VAU-HE-1Dがテロを起こしたように見せかけた。
・・・すまない。許してくれとは言わん。お前の情報を
流したのは俺だ。どんな罰でも受ける・・・。」
跪いているUPE-HE‐6G上尉をユーリウスは上から見下ろす。
「俺の情報!?。俺の情報は何も流れてはいない。俺は、
自衛軍第一駐屯地所属の超特殊部隊ティターンの隊員
『ロナウハイド』だ。」
「ロ、ロナウ・・・何・・・?。」
驚いているUPE-HE‐6Gに上佐が話し始める。
「本来であれば、お前はテロリストの片棒を担ぎ、情報を
外部に漏らした犯罪者だ。しかし、それを咎める事を
しなかった彼の懐の大きさに感謝するんだな。」
UPE-HE‐6G上尉はもう何も言えないでいる。ユーリウスは
「空いている部屋をお借り出来ますか?。彼と二人で話が
したいんで。」
「いや、君達はここにいていい。我々が外で待っている。」
長官とI-KUB-AYA202上佐は執務室を出て行った。
二人は暫く何も言わなかった。ユーリウスの頭の中に
色々な思い出が浮かぶ。同じ年代、同期でたった一人だけ
R-01クラスに配属された自分を誰もが嫉妬と疑惑の眼差しで
見ている。そんな中、優しく、親しげに接してくれたのが
UPE-HE‐6Gだった。お互いどこまで強いかをよく競い
合っていた。個人的な話なども熱く語り合った。そんな彼が
不本意とはいえ自分を裏切った。憎む事は簡単だ。だが
そうすれば今までの思い出全てが嘘だった事になる。やはり
憎む事は出来ない。
「・・・俺が真犯人じゃないかって、疑わなかったのかよ。」
UPE-HE‐6Gは、まるで独り言のように呟いた。
「・・・信じてたから。」「・・・え・・・。」
「もし、そうだとしてもお前は真犯人である事を隠して俺を
欺こうなんて出来る奴じゃない。」
「で、でも、お、俺は・・・、俺は一瞬でもお前を疑ってた。
仲間達に疎外されるのが嫌で、お前を避けていた。お前の事、
信じてやれなかった。そんな俺をお前は信じてたって
いうのか・・・?。」
「当たり前だろ。例えどんな事を腹の底で考えていたと
しても、優しくしてくれたのは事実だ。それは間違いない
だろう。」
「VAU-HE-1D・・・。お前って奴は・・・。」
UPE-HE‐6Gはもう何も言えないでいる。
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