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防具を脱いだ後はミリアと一緒に再びギルドの建物の方へと行く。報酬を受け取る前にシューインに言いがかりを付けられてしまったため、まだお金を受け取れていなかったからだ。
「おっ!ブレイドだ!いやあお前のお陰で稼がせてもらったぜ!ありがとな!」
「はっはっは!礼に一杯奢らせてくれよ!」
俺たちがギルドに入ると、俺とアイツの決闘を見た後に先に戻っていた者たちが酒を飲んで酔っ払っていた。相当出来上がっているらしく陽気なノリで俺たちに絡んでくる。俺はそれを軽くかわしながら受付のカウンターへ行く。
「ブレイド様、ベルナール様、お待ちしておりました」
受付嬢が改めて報酬の20万カニーを持ってきてくれた。この報酬は俺とミリアで山分け。お互いの財布に1万カニー金貨を10枚ずつ財布に入れた。
「報酬受け取ったんだろォ?ほら、俺に一杯奢らせろォ」
「何飲む?やっぱり酒だろ?」
「それじゃあラスタを」
「お?とりあえずラスタだね。」
「嬢ちゃんは何飲む?やっぱりメルメルか?」
「私はマーレイをストレートでお願いします」
「マ、マーレイ?!ストレートォ?!」
律義に報酬を受け取るまで待っていてくれた冒険者たちに円卓まで連れていかれて隣同士で座らされる。俺とミリアは冒険者たちに一杯奢ってもらうことになった。
俺が頼んだのはラスタ。バクと呼ばれる穀物を加工した酒だ。この加工の工程によってシュワシュワとした飲み物で、スカッとしたのど越し。特に暑い時期に好まれる飲み物だ。
冒険者たちにも愛飲者が多く、いつから言われ始めたのかは知らないが、冒険者たちが集まって最初に頼むときはとりあえずラスタと言うらしい。
そして一方でミリアが頼んだのはマーレイ。こちらはコンと呼ばれる穀物を主体に、バクなどの穀物を原料にした酒だ。
俺が頼んだラスタは原料を発酵させて終わりだが、マーレイは発酵させた原料を更に加熱して蒸留する。ラスタの酒濃度は大体5度くらいだが、マーレイは主流のもので大体45度辺り、モノによれば60度にもなる相当強い酒だ。
しかも彼女は水で割ったり氷を入れたりもせずそのまま飲むらしい。マーレイは元から荒々しいイメージのある酒なのだが、ミリアも相当尖った飲み方をする。
俺とミリアに奢ってくれる冒険者たちも酒には相当詳しいようで、彼らもそして俺も一様に驚いて、ミリアに思わず聞き返した。
そもそも俺はミリアが酒を飲んでも良い年齢かどうかも分かりかねていた。国にもよるが早くても酒は16歳からだったはず。このガルヴァン王国でも16歳から。俺の年齢は18歳なので問題なく飲める。
「私、17歳なので大丈夫です!」
「い、いや嬢ちゃん……それにしてもマーレイは大丈夫なのか?」
「大丈夫って……?」
「兄ちゃん……あんなこと言ってるが、大丈夫か……?」
「まあ本人が言ってますし……」
「よ、よぉ~し、じゃあ兄ちゃんにはとりあえずラスタ!嬢ちゃんにはマーレイだ!」
ミリアも自分が幼く見られることは自覚しているらしく、自分の年齢は17歳だと言う。まあ年齢に関してもそうなのだが、そもそも飲めるのかが心配な俺たち。冒険者の1人がマーレイを飲めるのかと聞くが、彼女はイマイチ彼の質問の意味が掴めていない。
俺はミリアが飲めるというのなら飲めるんだろうということで、それで大丈夫と答え、冒険者も給仕の女性に注文をする。
比較的すぐに持ってこられた俺のラスタとミリアのマーレイ。冒険者たちもそれぞれ自分の酒を頼んでグラスやジョッキを持っている。
「それじゃあ勇者ブレイド様一行のイングジャミ討伐と、ブレイドの決闘の勝利を祝して乾杯だあああああ!」
「カンパーイ!!」
非常に威勢のいい声で叫ぶ冒険者。この円卓だけではなく間違いなくギルド中に聞こえただろう。俺たちはコツンとジョッキやグラスを軽く当ててからグイっと一杯行く。俺は高さ15センメラー、幅10センメラーほどの樽型のジョッキの半分ほどの量を飲む。
そして俺はミリアの方が気になって隣を見てみる。無い!彼女のグラスからマーレイが無くなっている!彼女のグラスは高さと幅が大体9センメラーほどあるが、そのグラスに一滴も酒が残っていない。
「み、ミリア……じぇ、じぇんぶ行ったのか……?」
「はい!ここのマーレイはおいしいですね」
「じょ、嬢ちゃん、若いのにすげえな……」
俺は驚きのあまり声をひっくり返しながらミリアに尋ねる。だが彼女はケロッとした顔で、このギルドで出されているマーレイは美味しいと言っている。これは明らかに俺より酒が強い。そんなことを思っていると、この様子を見ていた負けず嫌いの冒険者たちがミリアと飲み比べを挑む。
だが全員ミリアに潰される。その間彼女は酒を水のように飲み干し、顔色一つ変えていない。
「あの嬢ちゃんバケモノだ……」
「酒豪王ベティスの生まれ変わりかなんかか……?」
大の男たちが酔いつぶれ、ミリアだけがニコニコと談笑している状態を遠巻きで見ていた冒険者たちは口々に、酒豪王ベティスの生まれ変わりか何かだと噂した。
このガルヴァン王国の歴代の王の1人にとてつもない酒豪と知られていた王が居た。その王の名前がベティスといったらしい。俺はあまり知らないが、騎士100人を順繰りに飲み比べて全員酔い潰したとか、他国の王が酒に目がないベティスを酔い潰そうとしたら一向に潰れず、城の酒が無くなって断念したとかいう逸話が残っているらしい。
「いやあ~いいもん見せてもらったぜぇ!色々な意味で」
「結局1杯どころじゃ済まなくなりましたけど、本当に大丈夫ですか?」
「おう!いいってことよ!」
「ごちそうさまでした」
「じゃあな嬢ちゃん。良い飲みっぷりだったぜ!」
随分と気の良い冒険者たちだった。結局一杯で済まないどころか、あの飲み比べの分まで出してくれた彼らと別れる。
もう辺りは日が落ちてしまっており、今から薬草採集に出るのは無理だ。そのため今日はもう宿を取って一泊することにした。
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