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俺たちは目的地の泉に到着した。この泉は退魔の泉と呼ばれる魔を寄せ付けない泉で弱い魔物はここに近づくことができないので休憩するにはちょうどいい。俺はここでシューたちと改めて話すことにした。
「皆お疲れ様。とりあえず集まってくれるか?」
「何だよぉ。改まって。」
「こうして俺たちパーティーを組んだわけだけど、何か気づいたことややりづらさとかはないかと思ってな。」
まずはパーティーのメンバーとの情報共有という形で話を始める。いきなりこちらが詰るような態度を取っては冷静な話もできないだろうと考えたからだ。
「特にねえよなあ?なあみんな。」
「はい。シューインさんが強いので特に苦は無いです。」
「アタシも無いよ。」
シューと2人の女性魔術師、マリー・ルイスとエリサ・バードは特に何もないと答えた。前々から思っていたことなのだがこの3人、随分と仲が良さそうだ。俺と関係が悪いというわけではないのだがいつも1対3のやり取りをしている気がするのだ。
しかしシューの奴はともかく、慌ててまるで見当違いの方に魔術を放ってしまった2人からも何も無いとは思わなかった。前衛が敵を押さえてほしいくらいは言われるかと思っていたのだが。
「そ、そうか。じゃあ俺から。シュー、俺の指示が聞こえづらかったり言い方が悪いということはないか?」
「あ?別にねえな。」
このままでは話が進まないので言葉を選びながらシューに自分の指示はしっかりと伝わっているかと尋ねた。だがシューは特に問題ないと言う。とぼけているのか本当に分かっていないのかは分からないがもう少し踏み込んで言う必要がある。
「さっきのケンゲール4体を相手にした時の事なんだが、俺の指示は右側のケンゲールを引きつけてほしいという指示だったんだが――」
「――だから右に当たったじゃねえか。」
「そうだな。だが前から言っていたと思うが敵が多い時は前衛の俺たちが後衛が魔術に集中できるよう当たろうと言ってただろ?あの時は2体ずつ足止めをしたかったんだ。」
「あ?知らねえよ。そんなのはお前がやってればいいだろ。俺が必要ねえくらい斬り伏せてんだからよぉ。」
俺はさっきの戦いを例にフォーメーションを無視していないかとシューに尋ねたが、やはり無視をしているようだ。奴が言うには自分が敵に斬り込んであっという間に片づけるから足止めは俺が全てやれば良いというのだ。
「それができるならそれも考える。だがあの時お前はケンゲール1体に手間取っていただろう。」
「はぁ?あの時間位押さえきれねえのお前さ。」
冷静に話を進めようと思っていたがヒートアップして語気が荒くなるシューに合わせて俺も段々怒気を孕んだ口調で応じる。俺もシューも立ち上がってにらみ合いながら言い争いになっていく。
「ブレイド、アンタ偉そうに言ってるけどシューに勝てんの?」
「な?!」
「ファーマー地区のミオーニーを倒したのもシューインさんですし……。」
グレイティス王国のファーマーという地域に出た魔族ミオーニー。頭部はコーと呼ばれる家畜だが身体は筋骨隆々とした男のような身体。頭はそこまで良くないが熟達の戦士たちが10数人が束になって掛かっても倒せないほどの強さを誇っている。俺たちパーティーはそのミオーニーを倒したのだが思えばその辺りからシューが増長し始めた。
俺とシューが同じく前衛で戦っていた。ミオーニーは魔術を使えないので俺たちが前衛で押しとどめて後衛の2人に魔術を撃ち込んでもらった。だが非常にタフなミオーニーは俺たちが何度刃を突き立てても魔術を撃ち込んでも倒れない。
マリーとエリサの魔術力も切れてしまい新たに魔術を使えない。その為シューに前衛を任せて俺は魔術と剣を併用しながら戦った。
そしてダメージの蓄積でバランスを崩したミオーニーにシューの大技が突き刺さる。
間違いなくミオーニーを倒した殊勲者はシューだったと思うが、それも4人で当たったからこその結果だったはず。だがシューはこの戦果で自信を深めてしまった。それ以来奴は自分1人で敵を倒そうとする動きを見せ始めた。
「大体お前ぇは命令するばっかりで役に立たねえじゃねえか。」
「剣じゃシューに、魔術じゃアタシやマリーにも勝てないくせに。」
「お前ぇが『勇者』やってられんのも俺たちのお陰ってこと。分かってんのか?」
「い、言い方は厳しいと思いますけど、その通りだと思います。」
俺は3人に攻め立てられた。たしかにエリサの言う通り彼女らより秀でた能力は持っていない。3人が俺を蔑むような目で見る。これは明らかに前々からそう思っていたような様子だ。俺の知らない所でそのような話をしていたのか?
「まあいいよ。お前ぇがそう言うんなら俺たちは抜けるわ。1人で勇者サマやってろよぉ。行こうぜ。」
ここまで共に冒険していた勇者ブレイドのパーティーはその一言であっさりと解散してしまった。俺が間違っていたのか?希望に燃えて4人で故郷を出た時、このような事になるとは思っていなかった。俺はあまりのことに途方に暮れる他なかった。
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