13.銀の龍 瑠璃色の姫君を愛でる

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「…で。何でお前が沈んでんだ?」 すっかり夜も更けてから、王城の居室にジョシュアが戻ってきた。 一日中王都の様子を見て、獣人国民の声を広く聞いてきたらしい。 「疲労回復か。ぴったりだな」 と、俺が淹れたハイビスカスとローズヒップのビタミンブレンドティを味わってくれてから、徐に俺を膝に抱えて後ろから頬を摘まむ。背中に感じるジョシュアの熱が、心に温かい。 「ネメシスになんか言われた?」 後ろからのぞき込まれて慌てて首を横に振った。 「…や。恋って、難しいと思って」 今更だけど。 俺はジョシュアしか知らないし。恋なのか愛なのか分からないし。他の人がどうなのかも分からないけど。でも。 甘くて苦くてしょっぱくて、…切ない。 相手の幸せを願うことが愛なのだとネメシスさんは言った。 ネメシスさんは、幼いころからずっと一途にジョシュアを想っていたのに報われなくて、死にたくなって、一連の事件に加担した。吹っ切れたようだったけど、やっぱり寂しそうでもあった。 俺だって死ぬほどジョシュアが好きだから、こればっかりは譲れないけど、切ない。どうしようもないけど、切ない。 「…まあ。シューノが何とかするんじゃないか」 …え。 俺の胸中を察したらしいジョシュアが、俺の頬を引っ張りながら放った一言に、勢いよく振り向くと、ジョシュアの瞳が優しく緩んだ。 ネメシスさんの死森行きには、蛇獣人だったシューノ(今はハヤブサ獣人のハヤテに宿っている)が同行したらしい。 「…そっか。そっかぁ」 何だか頬が緩む。 ちょっと突っ走り気味のシューノときりっと美しいネメシスさんは、意外とお似合いなのかもしれない。微妙な立場のハヤテは、…どうなんだろう。でもまあ、一緒に行ったってことは、一応納得しているんだろう。 「…シューノの尻尾攻めは癖になるって言うしな。お前も満更じゃなさそうだったもんな」 何となく胸を撫で下ろしていたら、ジョシュアがちょっと意地悪な声音で、俺の耳を舐めた。 「…な⁉」「は?」 俺とジョシュアの声がかぶる。 「「満更じゃないって何だよ⁉」」 焦ってる俺を見て、ジョシュアがニヤニヤする。 いや、これは絶対エイトリアンだ。耳舐めたあたりからエイトリアンだ。 シューノの尻尾攻めってマリンブルーの宮殿でのことだよな。あの時のこと、覚えてるのか。 スケスケで振り回された記憶がよみがえり、恥辱で顔が赤くなる。 「…お前。やりたい放題しやがって」 「そう羨ましがるな。今から再現してやるから」 ジョシュアとエイトリアンが何やら言い合ってから、唐突に俺を担ぎ上げて浴室に向かった。 「すげえな、ハーブバス」 「お前は見るなよ」 「見るのはお前だろ」 「ラズに触るなよ」 「触るのも、お前」 や、なんか。 ジョシュアが一人で喧々囂々しながらも、慣れた手つきで俺の服を脱がせてくるんだけど。別にジョシュアと風呂入んのは初めてじゃないし、ジョシュアになら何されてもやぶさかではないんだけど、…でもこれは。 どうにも落ち着かないんですけど⁉ 「…お前。見られながらスんの好きだもんな」 エイトリアンがチラチラし過ぎるんですけど⁉ 「…やっぱ湖に置いてくるんだったな」 「そんなこと言って。寂しいくせに」 クソ、エイト。俺の完璧に麗しいジョシュアのキャラを壊すなよっ
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