13.銀の龍 瑠璃色の姫君を愛でる

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「…あのぅ、ジョシュア様。俺たち、何にも覚えてませんのでっ」 「誓って何も、見ておりませんのでっ‼」 ややあって、ハヤブサ獣人たちがきれいに整列し、意を決したように揃って深々とジョシュアにひれ伏した。 「…何のことだ?」 ジョシュアのきょとん顔。なんだ、この可愛い銀角獣。 急なボーナスショットに心躍らせていたら、そのキュートこの上ない顔が、唐突なしたり顔にとってかわった。あ、これ、絶対、エイトリアン。 「あー、ジェームズ王の鬼畜プレイな」 「エ、エイトリアン様っ」「それは言わない約束では⁉」 ハヤブサ獣人たちが途端に焦り出す。 鬼畜プレイ? って、もしかして、… 「ジェームズ王は人間嫌いなのかもしれないが、殴ったり引きずったり透け透けだったり、…あれ、完全に趣味だよな?」 「あわわ、エイト様っ」「お、お許しください、ジョシュア様っ‼」 ハヤブサ獣人たちは、地中に顔を埋めんばかりにひたすらひれ伏すが、どこか戸惑っている様子も否めない。どうにも、外見と中身が一致していない。多分、焦っているのは中身で、外身は何が行われているのか理解が追い付いていないものと思われる。 「…なるほど。俺の花嫁を痛めつけた、と?」 ジョシュアが銀色の角を地面に伏しているハヤブサ獣人たちに向け、低すぎる唸り声を上げた。 「…お許しくださいませっ」「決して本意ではございませんでっ」 「我々は見たり触ったりなど、…っ」「姫さまの肌が雪よりも白く儚く華麗だったなどとっ」 「あ、シューノ!」「お前は喋るなっ」「余計なこと言うんじゃないっ」 ハヤブサ獣人たちは並んでひれ伏したまま、尾っぽや羽で隣の獣人を突き合う。 「…肌?」 「あー、…浴室で全裸だったもんなあ」 ジョシュアがピクリと眉間を引きつらせながら、からかうようにつぶやく。内なるジョシュアとエイトリアンがせめぎ合っているものと思われる。 「…殺す‼︎」 「まあまあ、減るもんじゃなし」 銀角獣が牙を剥いて蹄を鳴らし、飛びかからんばかりなのを、後脚が踏み止める。内なるせめぎ合いが甚だしい。 「…俺のラズを痛めつけて生きていられると思うなよ?」 「まあまあ、本人たち無自覚だから。ジェームズの怨霊のせいだから」 怒れるジョシュアをジョシュアが諌める。見てる方は戸惑いが隠し切れない。わけなんだけど、… 「…俺はジョシュアとエイトが助けてくれたから無事だし。シューノたちにもまた会えて嬉しいよ」 銀角獣の艶やかなたてがみを撫でながらハヤブサ獣人たちを見やると、中央のハヤブサ獣人が両隣りからバッサバッサと小突かれて、ほのかに顔を赤らめた。 「…シューノ。やっぱりお前は殺す」 「まあ、…異議はないな」 急にジョシュアとエイトが意気投合して、 「えええ、俺だけですか⁉︎ エイトリアン様の方が酷くありませんでした⁉︎」 「…俺はもうジョシュアだから殺せない」 「ずるっ‼︎」 内にシューノがいるらしきハヤブサ獣人が素っ頓狂な声を上げた。 なんかややこしいけど、ジョシュアの側近獣人たちも一緒に獣人国に帰れそうで良かったなと思った。
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