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俺とジョシュアを背に乗せた金龍は、武器を取り、怒り、いがみ合い、争い乱れる地上を壮絶な炎で燃やしてから、上空高くまで飛翔した。轟々と燃え上がる炎の勢いがすごすぎて、地上の様子が分からない。ただ燃え広がる凄まじい炎が、悲しみも憎しみも全てを焼き尽くそうとしているように見えた。
「ジョシュア、…」
滴り落ちる血で金色の鱗を赤く染めて、ぐったり倒れているジョシュアに触れると、薄っすら目を開けてくれた。
《…て、る》
胸が締め付けられた。
確かに。ジョシュアの唇がそう動いた。確かに。俺を見て、そう呼んだ。
柊羽なんだ。やっぱり、柊羽だった。俺の柊羽だ。
「もう、…」
力なく持ち上げられたジョシュアの手を取って胸に抱きしめる。訳も分からず涙がボロボロ零れ落ちた。ただただ涙だけが溢れる。それがジョシュアの青ざめた頬を濡らして、ジョシュアが小さく俺に微笑みかけた。
「どこにも行くなよ」
ジョシュアの甘くかすれた声が幻のように俺の耳をくすぐり、風に溶ける。ゆっくり目を閉じたジョシュアは、そのまま動かなくなった。
「柊羽? 柊羽、しっかりしろ。俺、…俺がついて、…っ」
ジョシュアの手をつかんだまま揺さぶる。奇跡みたいに美しく整った顔は血で汚れ、青白くくすんで生気がない。
自分が無力過ぎて泣けてくる。
何をしても。どんなことからも。俺が守ると誓ったのに。
俺は柊羽を置き去りにして、こんな瀕死の状態にした。
金龍が雲の合間をすり抜けて進み、水蒸気の結晶が悲しみの粒子になって俺の頬を撫でる。俺には何の力もない。柊羽を守る力がない。
「…嫌だ。死んじゃダメだ、死ぬな、柊羽っ、ジョシュアっ‼」
ジョシュアを抱きしめて叫んだ。ひび割れた声が空にこだまする。
神さま。ジョシュアを連れて行かないで。
何でもするから。何でもやるから。頼むから。
俺からジョシュアを取り上げないで。
どのくらい時が経ったのか、ジョシュアを抱きしめて震える俺の指先に光が灯る。徐々に広がり、静かにジョシュアを包み込む。光に溶けて消えてしまいそうなジョシュアを必死で抱きしめると、光の勢いが増し、俺とジョシュアの全身から光が溢れ出した。金龍の鱗に反射して、空間が黄金のプリズムに満たされる。
《治癒の力、…》
呆然と金龍がつぶやくのが微かに聞こえた。
光に浮かぶジョシュアが息を呑むほどきれいで、切なくて、愛しくて、そっとその形の良い唇に口づける。
「…足りない」
と、その瞬間。
髪に差し入れられた長い指に身体ごと引き寄せられ、長い手足に絡め捕られた。
ジョシュアの甘い唇が開いて、潤んだ舌を差し込まれて、呼吸ごと飲み込まれた。飢えたみたいに性急に動く舌に奥深くまで満たされて、身体の芯が疼く。熱い。燃える。何もかもを捧げたくて息が出来ない。
ジョシュアの舌に翻弄されて気が付いたら、温かく艶めいたジョシュアの肌にぴったり抱きしめられていた。恐る恐る目を上げると、宇宙に浮かぶ地球みたいな麗しい虹色の瞳が優しく見つめ返してきた。
「本当は、まだ足りないけど」
艶やかに潤った魅惑の唇が動いて、奔放な舌がチラリと覗く。ジョシュアの首元に擦り寄せていた頬が熱をもって一気に爆発した。
な、…っ⁉ 瀕死のジョシュアがエロいっ⁉
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