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《俺の上でイチャコラすんじゃねえよっ》
ジョシュアの色気にやられて息が止まりかけていたら、急に金龍が長い尾っぽを荒々しく振り回し、俺たちは金色の鱗の背を滑り落ちて、空中にほっぽり出された。
「う、おおお、―――――…っ」
耳元で風が唸る。上空何メートルか。雲を突き抜ける高度だ。
頬を打つ空気の渦。眩し過ぎる快晴。眼下に広がる深く広い樹海。
満身創痍のジョシュアと無力な俺を空中に放り出すなんて、何て奴だ、エイトリアン―――っ
恨みがましく見上げた先で、金色の煌めきが嘲笑うように青く白い空に溶けて消えていった。
クッソ、エイトリア―――ンっ‼
声にならない声が空気中に吸い込まれて消える。
身体がバラバラに千切れそうに揺れ、意識が飛びそうになる。
落ちる、死ぬ、落ちる、死ぬ―――――、…
今度こそもう駄目だと、いっそ気を失ってしまいたい気分で固く目を瞑ったところ、
ふわり、と艶やかで柔らかい優しい羽根のような温もりにすくい上げられた。
滑らかで優しい。柔らかく潤う。しなやかに強い。
身体を包み込む温もりはわずかに懐かしく、目を開けると、銀色の輝きに満たされた。
天翔ける壮麗な銀角獣。
銀色の角を持ち美しい翼を広げた一角獣が俺を背に乗せて空を翔けると、静かに深い樹海に入り、潤沢に湧き出る泉の畔に降り立った。背の高い樹木の間から差し込む陽の光に泉の水が透けて、鮮やかなコバルトブルーが浮き上がる。水辺には濃淡様々な緑が茂り、深緑の風が渡る。静かに清い生命力に満ち溢れたこんな場所が、暗く閉ざされた死森の中にあるなんて、意外な気がした。
「…ジョシュア?」
銀色の一角獣は地上に降り立つと、人の姿に形を変えた。
風になびいて煌めく銀髪の。切れ長に深い地球色の瞳の。しなやかに鍛えられた肢体の。長く整った手足の。俺を魅了してやまないたった一人の男。
「…怪我ないか?」
ジョシュアの深くて甘い声が耳に届いた瞬間、堪え切れない何かが溢れてジョシュアにしがみ付いた。
「…ジョシュア―――――っ」
ジョシュアの肢体に傷は一つも見られない。血の跡も消えている。肌色も艶やかで、生きて、動いている。
「無事で良かった―――――っ」
安心したら馬鹿みたいに泣けてきた。存在を確かめるようにジョシュアを抱きしめる。後から後から、温かい涙が零れ落ちる。
「…お前」
ジョシュアは俺を守るようにその身体で包み込み、強く抱きしめ直すと、あやすように背中を撫でた。完全に立場が逆転してるじゃん、…と思わないでもなかったけれど、触れる手が優し過ぎて、もうどうでもいい。
ジョシュアは涙で濡れる俺の頬に口を寄せ、
「結構、泣き虫だよな」
溢れる涙をキスで溶かした。
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