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第一回(昭和十年上半期) 蒼氓
著 石川達三
発行 1935年
候補作
『草筏』 外村繁
『故旧忘れ得べき』 高見順
『けしかけられた男』 衣巻省三
『逆行』 太宰治
蒼氓(そうぼう)
人民、民、蒼生。多くの人々。「氓」は流浪する民を意味する。
舞台・時代
1930年。金融恐慌により国民は困窮。政治腐敗。兵役法があったり、今より医療が未発達だったり(作品にちょっと関係があるため記述)。
あらすじ
戦前。ブラジルへの移民を余儀なくした、貧しい農民達を描いた作品。三部作構成で、芥川賞を受賞した『蒼氓』はその第一部。移民収容所へ集まった人々が神戸港を出港するまでの日々。(収容所では、身体検査やワクチン接種。ブラジルでの生活ための準備、勉強などを行う)
感想
これまでの生活の全て、慣れ親しんだ故郷を擲って、言葉も文化も分からないブラジルへの移民を決めた当時の人々の貧しさ、やるせなさ。そこから至る、諦めや達観、向こみずな希望。移民収容所の人々を『風の吹きだまりに集まった落ち葉のよう』と表した比喩が印象的だった。
文体は簡潔で読みやすい。客観的。描写が精巧で、その場その場の情景をはっきりと頭に浮かべる事ができる。特に終盤、迫力と哀愁の出港には感動を覚えた。
台詞の方言が魅力的。文章が簡潔でも、これのおかげでキャラクターに生を感じる。「日本じゃあ働えても食えんいうとりますけんのう」。「どこさも糞もねえ、あっちさなげればええんだ。どこでもええ、日本さ投げれば日本だ」
登場人物のそれぞれの境遇に、それぞれ考えされる事があったが、特に印象深かったのは、故郷に心に決めた相手がありながら、弟との移民ため、友人と籍を入れて(夫婦とその家族でなければ、国からの渡航費の補助が得られない)やって来ている、お夏という女性。諦める事に慣れてしまった彼女の悲しみや苦しみには、胸を打たれた。
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