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 柔道よりも長距離走のほうが好きだ。県警本部刑事部捜査一課管理官の山崎は、今でもそう思う。  警察官に採用されると、警察学校で半年間訓練を受けることになるが、そこでは格闘技として柔道をやらされた。  まさか自分があそこまで格闘技というものに適正がないとは思いもしなかった。高校のころに部活で陸上の1万メートルの選手として活躍していた山崎は、持久系のスポーツをやる人によくみられる細身の身体をしており、170センチの身長でありながら体重52キロ。  警察官を志す人のなかには柔道や空手の経験者が少なくなく、警察学校では黒帯の同期に何度も軽々と投げられた。技を掛けられるのはともかく、掛けるほうはより苦痛で、自分よりも10キロも20キロも重い相手を背負うと、膝から崩れ落ちそうになる。  足の裏を畳に付けたまま移動する「すり足」というのが苦手で、気づけば足を上げて動いてしまい、指導員である上官に厳しく叱責された。足払いを掛けられないようすり足で移動しなければならない、というのは理に適っているとは思うが、山崎にはそれが人間には不自然な動きのように思われた。  一時は警察官採用試験を受験したことを後悔したくらいだった。  とりあえずなんとか警察学校を終え、卒配の後は所轄の刑事課勤務となり、それ以来ずっと刑事畑を歩んできた。  交番勤務や機動隊などと違い、刑事課はすでに発生した犯罪を捜査することになるため、現に犯罪を犯している危険な犯人と接することは意外なほど少ない。刑事は非常に体力を要する職業ではあるが、それは何日も徹夜をしたり朝から晩まで聞き込みに回ったりという、どちらかというと瞬発力よりも持久力を要する。なので、格闘技が苦手で長距離走が得意な山崎には非常に適正があったと言える。  20代、30代と刑事課および本部捜査一課で手柄を立て、本部長賞を受けたことも複数回あり、順調に出世していった。40代となった今は警視となり、捜査一課の管理官として奉職している。
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