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シナリオ開始
通い慣れたマンション。真っ白な床が張り巡らされた通路に立ち、昇の部屋の扉を見た時、少しだけ目に熱さを感じた。
「雲流、私のシナリオ持ってる?」
「はい、ご覧になりますか?」
「ううん、私は頭の中に入ってる。それを見て雲流はどう思った?」
「はい、修羅場になったとしても、これからのお三人の事を思えば適切なお導きではないかと…」
「だよね?…じゃっ、始めよっか」
私達は彼女の玄関の部屋の扉を突き抜けた。この部屋の主がもうすぐ帰って来る時間だ。
「雲流、わかってる?帰って来たらバッグを落とすのよ!」
「はい、わかっております。荷物がばら蒔かれればいいんですよね?」
「っそっ!私はそれ迄にもうひとつしかけを作ってるから」
私と雲流は予定通り仕込みを終わらせた。間もなく彼女が帰って来た。
「雲流!今よ!」
「はいさ!」
「あっ!嫌だぁもう…」
彼女は玄関にばらまいてしまった荷物を慌てて片付けた。
彼女が食事の支度が終わった頃、昇が来た。
二人は仲睦まじく食事をしている。彼女は優と呼ばれていた。その横を通り隣の部屋のドレッサーに向かった。そこに置かれた化粧ポーチの中の口紅を取り、ポケットに入れた。服の中に入れてしまえば外からは見えない。
再び玄関に戻る時、二人の横を通り過ぎる。優さんは名前通り優しさがそのまま顔に滲み出でいる可愛いタイプ。美咲とは正反対だ。料理も美味しそう。
私はこれからする事を考えたら可哀想にもなったが、それは雲流が言った通り、優さんの先を考えての事。そして何より悪をしたら悪が帰って来ると昇に教え改めさせなければならない。
優さんごめんね、口紅1本お借りします。
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