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丸めたシュラフにくっついて、押し潰されたハート形の空箱が出て来た。
ゴミ袋に放り投げてから、鈴の音に拾いあげた。
幾つかのキーホルダー。天満宮のお守りも入っていた。
それと、オペラグラス。
こんな処にしまっておいたか。
丸みを帯びた長方形をして、銀の透かし模様が美しい。
それは、一人自宅通学のミツキの家に遊びに行った時だ。
近くの天満宮の境内辺りで骨董市が開かれていた。
通りがかりに見て歩いて、鈍く光って目に留まった。
本当かどうかはわからないが、大正時代に作られた、非常に精巧な飾りで状態も良い。今でも充分に使える品だと。中年の男が説明してくれた。
1万円はしなかったと思うが、金が足りなくてミツキに借りて買った。
「買うの?マジ?亮ちゃんにそんな趣味があったとは意外」
とか言われた。
アンティークに興味があった訳ではない。その男が言った
「覗くと未来が見える」
というひと言で欲しくなった。
勿論、未来が見えるなんてことを信じた訳ではないけれど。
1年2年、そのオペラグラスをお守りのように持ち歩いていた。
この空箱は彼女からバレンタインチョコが入っていたやつだ。
いつから手離して箱に収めたのか…。
積み重なる時間。
日常の隙間に紛れ込んで、忘れたり、失くしたりする。
本当はいつも直ぐ側に在るのに…。
掌に丁度収まる。
スマホより少し小さくて厚みがある。
なんだか、随分久しぶりに手に取る。
黒っぽく変色したオペラグラスで、部屋の中を見渡した。
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