足跡のレゾンデートル《存在意義》

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 空手部の帰り、父親の恵介から、この事件を聞かされた景子はうんざりした顔をした。  時間を巻き戻す能力を使うと、景子の時間だけは戻らず、結果的に早く老化してしまう。  今日も親友の三田から「あんた、このところ大人っぽくなってきてない」なんて言われて、うれしいどころかドキリとさせられているのだ。  「お父さん、助けてあげたいのはやまやまだけど、そろそろ、わたしから卒業してくんないかな」  ファミレスでチョコレートパフェを奢ってもらいながら、景子は不平を漏らした。  このところ、景子は懐が寂しい。  なんせ自衛隊から依頼された仕事のバイト料は、すべて母親が預金してしまうのだ。  これではアイドルグッズ購入どころではない。  「そんな冷たいことを言わないで、頼む! 総理や官房長官が殺されたんだぞ、日本の危機だ!」  「だってぇ~、小難しいことはわからないよ、その人たち、ほんとに日本のためになってんの? いい噂を聞かないよぉ~、支持率二〇ポイントも下げてるじゃん。この間も忘年会でハシゴしてるし」  「新聞を読んでるのか?」  「ふるーい、ネットするし」  「忘年会しただけだろうが、テロなんか許しちゃだめだ! それも人の命が奪われてるんだぞ!」  「そうだけどさぁ」  「わかった、バイト料はハズむから、おかあさんに内緒だ」  「マジ?」  「ま、マジだ! 頼む、正義のために頑張ってくれ!」  「でも、敵の正体が不明じゃ、こわーい」  「くそっ……」  「え?」  と、訊き返す娘に、慌てて恵介は首を横に振った。  「いや、なんでもない、実はあれは新型のパワードスーツで、ゲル状の特殊な素材で製造されている。形状が変わることで機能がチェンジする仕組みになっていて。力が欲しい時には動物のゴリラを模したパワーモード、速さが欲しい時には豹を模したスピードモード、垂直の壁を上りたいなど特殊な状況に対処したいときはヤモリの姿のコマンドモードになる」  「あのそれって」  「そうだ、自衛隊が菱形社に開発させた歩兵用のパワードスーツ! そのプロトタイプのデータが盗まれて、某アジア諸国のブラックマーケットに流れてしまったらしい」  「つまり韓国、中国、インドとか?」  「こら、こら、こら、国名を出すんじゃない、国際問題になる!」  「セキュリティ対策、しっかりすりゃいいじゃんか」  「出たもんしょうがないだろう、今はテロを未遂に終わらせるしかない!」  「はぁ~、つまるところ、また自衛隊の尻拭いかぁ」  「相手はおそらく特殊工作員だ、三つの力を駆使する強敵だぞ」  「うーん、でもゴンタロウと比べて、性能はどうなの?」  恵介は右手の親指を上に立てた。  「相手は人間の三倍の力を出せるように調整されているパワードスーツだが、ゴンタロウのほうが上だ。なんせフルパワーモードになれば、千馬力、おまけにチタン合金の装甲までオプションで装備して。頭や胴体の特殊装甲なんか厚さ九十ミリだ。負けんよ、総理には会食を中止してもらい、身代わりのアンドロイドで待ち伏せだ」  「なるほど、ゴンタロウの兄弟アンドロイドまで加勢してくれるなら安心ね」  そう意気込んだが、結果は散々で、ゴンタロウたちでは相手のスピードについてこられず、コテンパンにされてしまった。  パワードスーツは野獣的な速さで、次々と姿を変えて、ゴンタロウを含めた五体のアンドロイドを翻弄したのだ。  仰向けにひっくり返された景子はヒスを起こして、ゴンタロウに八つ当たりした。
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