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(俺は何をしてるんだろうなぁ)
自分でもため息をつきたくなる。
馬鹿馬鹿しいことはやめろと、理性が警告している。
それでも、どうしようもなく心臓が高鳴ってしまう。
それが恐怖だけによるものではないとわかっているから、もう引き返すことはできないのだ。
念のため言っておこう。俺は別に自殺したいわけじゃない。
そもそもこんな高さから飛び降りたところで、多分死にはしないだろう。一応地面にはマットレスも用意している。
さて、死を望まないなら、こんなところで何をしているのか?
自分でもうまく説明できない。
できないが、まぁ一言で言うならば「好奇心」になると思う。
俺は今中学3年生。夏休み中盤、受験勉強の結果が出ずに伸び悩んでいる。
半年後の受験本番で、俺はどうなっているんだろうか。そりゃあ、悩みがないと言えばうそになる。
毎日毎日後悔を積み上げて、1年前、半年前、1ヶ月前、そして昨日の自分の行いがすべて重荷となって肩にのしかかっている。そりゃあ、つらくないわけはない。
いっそのこと、競争なんかやめて、受験も何もかもやめて、みんな平等に何もなく暮らせていけば幸せなのになぁ、なんて思ったりもする。
でも今窓辺に立っているのは、ネガティブな感情からではない。本当だ。
今日もいつものように参考書をたくさん開いていた。どうにも手が動かなくて、何となく窓の外を見た。
鮮やかすぎる青の中に、フワフワとした真っ白な雲があった。
その妙な存在感は、手を伸ばせば届きそうに錯覚させられる。
――雲に足あとはつくのかな?
先月の姉の言葉が、どこからか聞こえてきた気がした。
その言葉を姉から聞いたときは、馬鹿な話だと思った。
雲は水の粒が集まってできている。俺だって知っている。
そもそも雲の上に立てるはずないのだ。
マシュマロのような素材ではないのだから。
でも。
(もし立てるとしたら?)
なぜだか、やけに大きなわた雲から目が離せない。
試してみたくなった。
……今、屋根の上に乗っているのは、そんなわけだ。
着地点となる庭では、ドライアイスを水につけてある。
素晴らしいアイデアだ。地上にいながら、雲の上に行くことができる。
今、地面一体は真っ白な霧に覆われている。地上にできた雲だ。
ここまで来たら引き返せない。
心臓が今にも喉から飛び出しそうだ。全身が震えるのは、恐怖か、武者震いか。
(落ち着け、俺)
真っ直ぐ下を見て、力強くフッと息を吐く。
そうすると、体の芯から力がみなぎってくる。もう数センチ、屋根の縁まで歩き出してみる。
強い風が吹いた。
雲が大きく揺れ動いた。
それが合図だった。
俺は、這いつくばう雲の上に勢いよく飛び乗った。
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