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見知らぬ白い世界
――なんで今、これを思い出したんだろう。
優しい光の中、大の字に寝転がりながら、よく回らない頭を何とか働かせる。
――着地には失敗したのか。
雲へと飛び降りたとき、視界が悪くて目の前が真っ白になったことは覚えている。そのあとのことは、よく覚えていない。もしかしたら眠っていたのかもしれない。
――雲の上には立てなかったな。
そりゃそうか。粒が集まってできているのだから。すり抜けるのは当然だ。
――やけに柔らかい。
低反発で、実体がないかのように軽くて、全身を包み込まれているような、まるで自分が浮いているような。
――床に敷いたマットレス、こんな柔らかさだったっけ。
それに、変に眩しい。ずっと室内にいたからそう感じるだけだろうか。
ギラギラとした眩しさではなくて、ポカポカとした、暖かい眩しさだ。おかしい。俺の知っている夏は、こんなに気持ちのいい季節ではない。
しばらくして、これがまぶた越しの明るさであることに気づいた。
――これは……、目を開けていいのか。
しばし思案した。
目を開けるのが恐ろしかった。同時に、目を開けないでここに横たわり続けるのも怖かった。
嫌な予感がフツフツと湧き上がる。
結局、俺はまぶたを上げる選択をした。
――白。
白、白、白。
そこは白に包まれた、見知らぬ場所だった。
「どこだ、ここ」
慌てて体を少し起こし辺りを見渡しても、目印となるようなものは何もない。ただ、真っ白な煙のような地面がずっと遠くまで続いている。
視界は悪く、景色全体が光って見える。右も左も、前も後ろも、上も下も、白い光に包まれていて、まるで雲の中に入ってしまったかのようだ。
――雲?
あぁそうか、今は作った雲の中にいて、だからこんなに真っ白なんだ。きっとそうだ。
だから、立ち上がればきっと見慣れた景色が――。
否。立ち上がってみても、景色は変わらなかった。
足場は低密度な砂場のようで、うまくバランスがとれない。
温もりに包まれているはずなのに、背中にはひどく冷たい汗が伝う。
「どこだよ、ここ」
思わず泣き出しそうになる。
存在感のない世界の中で、自分の存在まで消えてしまいそうだ。それが怖くて、煙の上をフラフラと歩き回る。
「とうちゃーん! かあちゃーん!」
必死の叫び声も、反響さえせず白の向こうへ消えていく。
「ねぇちゃーん!」
当然返事はない。いよいよ目から涙が溢れてしまうというその瞬間、歪む景色の中に、たしかに白以外の色を見つけた。
――あそこまでたどり着けば。
もう藁にもすがる思いだ。もつれる足を前に前に運んで、その"色"にたどり着く。
いや、正確には、たどり着くことはできなかった。
その色は、俺の手の届かないところにあった。白い世界が――煙の地面が途切れる少しの隙間、そこから下を覗き込んだところにその"色"はあった。
「は?」
その"色"は、俺のよく見知ったものに見えた。その正体は、たくさんの家と、木々と、道路と――。
「じゃあ、どこだよ、ここ」
もう何度も口にした問いかけをする。しかしもう答えはわかっていた。
「……雲の、上?」
その答えを導くと同時に、前方から何者かが近づいてくるのがわかった。
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