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「よーし終わった終わった」
「お疲れ、まだ仕事あるぞ」
「お・ま・え・も・な?」
入学式が終了して二時間。俺と進は入寮する新入生への案内のためイベント実行ギルドが管理する一室を占拠して仕事しつつダラダラとしていた。
使用許可とかは取っていないが俺がいる時点でほぼ顔パスなので問題ない。そもそもこの学校には教室余りまくってるし。
入学式の会場である星彩ホールは我が校に山程存在するホールの中で最も大きなホールだ。全校生徒が集う集会の場は大体此処で、3階建ての超でっかいホールだ。因みに劇とかライブとか用の装置も配備されている。とんでもねえ財力だなこの学校。
会場は基本的にイベント実行ギルドの管轄何だが今回は学園全体のイベントとして運営は学園がやっている。その辺は去年も同じだ。
「スピーチは相変わらずだったな」
「まあ新入生だって一か月にもすりゃこの異常空間に慣れるんだよ。スピーチだってありきたりな事しか話してない、俺は」
「変なこと話してしらけるよりよっぽどいいよ。短く終わってくれたし」
「新入生、クラスごとに指定した教室に案内してあるらしいからそろそろ行くぞ」
「はいはい。まあお互い上手くやろう」
時間なので部屋を出て指定教室へ向かう。
新入生達はきちんと座って待っていた。あ~、懐かしいなこの感じ。
俺もこんなんだった。内部生でもちょっと緊張するんだよな。まあ今年の新入生は幸運だろう。少なくとも運営はそれなりにまともな人だからだ。
教室に入った瞬間視線が一斉に集まる。
まあこんながっつり金髪に染めてちょっと制服崩した人いたらびっくりするか。俺別に見た目ほど怖かないんだけど。
「はい、皆入学おめでとう。俺は星寮の寮長をしている篠本 暁。入学式でも見ているので知っていると思うが。此処は北寮に入寮する生徒が集まっていると思うけど違う寮なら直ぐに申告する事。後北寮寮長は本日欠席のため俺が代理で説明会と寮の案内をする。それじゃ、点呼するから返事宜しく」
一人ひとりリストの名前と本人を確認していく。最近の世代は読みにくい名前や当て字が多くて中々大変だ。
「佐藤、西方、秀……」
ん?待て、この名前……いや、そんなまさか?
「どうかしましたか?」
かけられた聞き覚えのある声に顔を上げる。
「……柊」
「はい」
名前を呼ばれた声の主はハスキーで甘い声でにっこりと微笑んで返事をした。
その顔はサプライズや悪戯が成功した時の楽しそうな、愉悦に満ちた表情。
くそ、アイツ何でここにいんの!?
いや、受けたんだろうな、此処を…うっそだろ俺らの居る学校にまさか来るとは思って無かった。ってかこっちがいるってことはあっちも……
はあ、確認は後だ。取り敢えず後で携帯で連絡しよう。今は仕事だ。
「今から寮に案内するから通路を邪魔しない程度の幅でついてくること、ハイ、並んで並んで~」
並びに教室の外へ向かう生徒たち。そしてその流れを全く気にせずに柊…ハルは俺の方へと近づいてきた。
「驚きました?まあ、顔で分かりましたけど。今日からまた先輩ですね」
「お前は…高校の話を一切してこないと思ったらこういう事か…てことはトウもいるのか。ほんっとお前らと言う双子は…」
「ふふ、トウは西寮なので向こうでも驚いていると思いますよ」
「わかったわかった。取り敢えず列に並べ、悪目立ちする」
誰かに見られていないか気が気じゃなくなりながら俺は話しかけて来た生徒を案内した。コイツについてはまた後で会うので今は特に説明はいらないが…まあ、簡単に言えば中学以来の後輩である。とても厄介な、がつくが。
取り敢えず一年たちを生徒会に引き継ぐべく案内する。
いつもなら取り巻きやらチワワやらファンやらが出勤して大騒ぎなのだが今日はそこら辺風紀が仕事しているらしく見かけない。
本当に初日から一年をここの空気に染めるわけには行かないからな……いや、中等部の時点で染まっている奴もいるのかもしれんが。
時折一年達は俺の顔をチラチラ見たり頬を染めたり忙しそうだがこれくらいなら可愛いものだ。俺の顔、別によくもないぞ。
悪くはないと思うが他の連中に比べたら霞むだろう。進でさえかなりのイケメンだしな。
こっから立派な過激派に育つ…っては欲しくないな。切実に。
後、案内の途中他のクラスの生徒とすれ違ったがそこに顔が凄く綺麗な子と可愛い系の子がいた。
この学園では顔の良いヤツは例外なくヒエラルキーのトップに躍り出る。多分彼等もそうなるだろう。
「あ、アキちゃ~ん!こっちよこっち!」
「華先輩、ご苦労様です。引継ぎお願いします」
「OKよ!予定通り4時になったら寮案内に引き継ぐわ。北寮はアキちゃんが担当するで良いのよね?」
「はい。…すみません飯神の奴が。正直俺が北寮に手を入れるの、贔屓とかあって許してもらえないんじゃないかと思ってたので」
「まぁ~去年の事もあるし、その辺はウチのトップたちが合意してるから大丈夫よ。流石にトップが睨んでいる中勝手に抗議できる子は少ないもの。一年生にも不満が出るかもしれないけど、そこは上に任せとけばいいのよ」
「色々すみません」
「もう!そこはありがとう、でしょ!」
「ありがとうございます。いつも華先輩の明るさとコミュニケーション能力の高さに助けられてます」
「……んま~~!これだから可愛いのよアキちゃんは!生徒会の後輩と交換できないかしら?御影ちゃんに相談したらくれないかしら?」
華先輩は俺をぎゅーーっと抱きしめながらそんな冗談を口にする。
感謝の言葉は事実なのだが、そこまで言われるとこそばゆい。正直派閥としては【黒】と【虹】は割と仲がいいし、これからも仲良くさせていただきたい所なのだ。それに華先輩からのスキンシップはそこまで嫌いな物じゃない。
なんだろう?邪念を感じない。
「…はいはい、新入生諸君にはちょーっと刺激の強い光景ですよ、離れて離れて」
「わっぷ…進か、ケチ」
「うるせぇ、往来で触り合うとか星付きがやったら大惨事だぞ」
「語弊あるぞ変態…あ!そうだビッグニュースがあるんだ」
「ツインズだろ?俺の担当クラスにトウが居た。後で会おうってさ」
華先輩のハグは残念なことに突如湧いて出た進がべりっと剥がしてしまった。結構強引だなお前…華先輩となら間違いは絶対ないから大丈夫だって。大体誰とでもハグするし、華先輩は。
「ふふ、進ちゃんはせっかちさんねぇ」
「…そっちが何を考えてるか知りませんがコイツは俺ら寮長会のなんでその辺よろしくどーぞ?」
「あらら、それは【透】のNo3、西寮寮長としての忠告かしら?」
「御随意に。…行くぞ」
「そうねえ、でも…急いでるのはどっちかと言えば【皇帝】様だと思うわよ」
「ちょっと手ェ引っ張るな!すみません華先輩、また寮で」
気のせいだろうか、ちょっとバチっとした空気が辺りに漂った気がした。…いや、これは静電気だ、間違いない。
そう思ったほうが幸せな感じだ。
ずんずんと俺の手ごと引っ張りながら速足で進む進の手を俺はとんとん、と叩いた。
そして何かと怪訝な顔を向けてきた進の前髪に触れ、軽くデコピンを放つ。
俺の唐突な攻撃を喰らった進は驚きを顔に張り付けた。こうかはばつぐんだ!
「な」
「…顔、ヤバいぞお前。折角の男前が台無しだ」
にひゃっと悪戯成功の笑みを浮かべる。余所行きの笑顔じゃない、いつもの笑顔。中学時代から変わらない、いつもの顔だ。
進はようやく驚きから回帰し冷静になったのか顔を赤くしてあーとかうーとか言っている。意外と照れ屋だよなコイツ。
「…お前さぁ、ほんとさぁ……」
「で、冷静になったか?」
「むしろ頭がおかしくなりそうだ…はぁ、おい暁、それ俺以外にやんなよ」
「お前以外にやる相手いねぇし」
「そーかよ…にしても本当に厄介なことになったな…アレに本気出されたらまず…」
「また顔に皺!」
何故か疲れた表情をした進に盛大な溜息と共にぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられた、解せぬ。
待って進痛い、顔上げらんない。
まあ、そんな一幕を挟みつつも俺は無事に新入生の入寮手続きを済ませることができた。北寮は独自の偏ったルールこそ無いものの、徹底して実力主義の縦社会な風潮が強い。
新入生もその洗礼を受けることになるだろうがまあ、頑張ってほしいものだ。
因みに飯神の奴は部屋にすらいなかった。せめて部屋にいろよあの野生児。
時間が少し過ぎて、夜。
「おーい進、居るか?」
「おう、入っていいぞ」
俺は西寮にある寮長室へとやってきていた。
基本的に寮長の執務室として使われるこの部屋は大きな机に資料の入った本棚、来客用のソファに給湯器などとても一般的な執務室だ。
ただ寮長によって使い方は違うし、俺は来客時にしか使わない。北に至っては使われてすらいない。
そして部屋の中には進以外にも先客がいた。
「待っていましたよ、先輩」
「待ってたよぉ、先輩」
「お前らの『先輩』呼びは逆に鳥肌が立つな…」
片や、金髪のマッシュヘアーに鳶色の瞳、サングラスをかけて意味深にほほ笑む青年、片や方々に跳ねた青い長髪に黄色のメッシュが鮮やかでどこか気だるげな雰囲気の青年。
俺とさほど身長の変わらないこの二人は、中学時代、進も含めてつるんでいた二人の後輩だ。
金色の方が柊 ハル、青い方が柊 トウ。
この二人は一卵性双生児…要は双子である。
先輩後輩とはいえ俺たちはまあまあ仲が良かったので同年代の友人のような関係性だが。
「…ふふ、驚きましたか?」
「サプライズしたいってハルが…俺はめんどーだから辞めよって言ったのに」
「おう、それはもう盛大に驚いた」
「だなぁ。にしてもお前ら一年見てないだけなのに身長伸びたなぁ…もう俺といい勝負じゃん」
「トウは猫背なので、多分篠本先輩には勝ってますよ」
「本当かよ…てか結局先輩呼びは続行なのか」
「学園じゃ立場、とかさ…めんど~でしょ~?そんくらいならいーよって。でも俺らだけの時は~、ちゃんとアキって呼ばせてねぇ」
「僕たちも通うにあたってこの学園のことはそれなりに調べましたからね…まあ、まさかこんな夢のような学園があるなんて聞いたときは想像すらできませんでしたが!」
「「あー、まあそうだろうな…」」
進と俺はにっこりと笑みを一層深くしたハルの顔を半目で見ながらため息をついた。
「しかもありとあらゆる属性のイケメンが勢揃い!二次創作の小説でも見ないような閉鎖的なシチュエーション、ゲイが学園の大半を占める開放的な学園…!!!これは妄想が捗りますね!!!」
そう、もうここまでくれば言わずとも分かるだろう。
柊 ハル。
見た目一癖ありそうな王子様系美人である彼は生粋の腐男子様なのである。
なんでも色々あってそっちの世界に行ったらしいがコイツ顔面も外面も良くて女性の引く手あまた、オタクっていうより圧倒的リア充のステータスを持っているのに何故腐ってしまったのだろうか。
尚トウの方はそんなことはないので安心して欲しい。
「で、進は良い人の一人でも出来ましたか?」
「直球だなおい、仮にも先輩だぞ」
「いやいや、遠慮せずに言っても構わないんですよ?祝言あげて結婚式のスピーチは僕がやって差し上げますから。そして十分にのろけて下さい、ネタにしますから!」
「出来てねぇわバカ」
進が小突くとハルはおお痛い、なんて言いながら泣きまねをしている。白々しい。
このやりとりも日常茶飯事だ。俺は全くハルの腐男子特有質問攻めテロに逢ったことはない。言うほどモテないし萌えないと思われているんだろう…寧ろ嬉しいかもしれない、それ。
「お~、久々のアキだぁ…きもちいい」
「はいはい止めろー、冬でもないしあっつい」
「冬だったらいーの?」
「冬でも止めろ…この学園じゃ何の邪推されるか分からないんだから」
「別にいーけどなぁ…ってか、そっちの方が良い感じ?」
眠そうな声で俺の首筋に頭を埋めてぐりぐりと頭を擦り付けてくるトウに抗議する。長い髪が脇腹付近にあたってくすぐったいったらありゃしない。
体も中学の頃より大きくなって手もしっかりと腹に回されるし、ぐっとかけられた体重から抜け出すのは難しい。
「良くねぇ!!!お前はこの学園の妄想力の逞しさを知らねぇから言えるんだ!時にハルより酷ぇからな!学内でヤってる奴らが居るような場所だぞここは!」
「やはりいるんですね!?すみませんそこのところ詳しk」
「いい加減にしろ」
進の珍しい低音ボイスに俺、ハル、トウは三人で固まった。
その間に進は俺とトウをぺいっと離す。助かった。こういう所進は本当に良いやつだと思う。
トウは抱き着き魔で一度抱き着くと明確に拒否したり力技を駆使しない限り放してくれなくなるのだ。
冬とかだとぬくくて良いのだが、正直変な空気になりやすいので止めてほしい。外すとしなっしなになるのでそれはそれで面倒だが。
「…で、さっさと本題に移るぞ。お前らに言っておくのは、所謂この学園での不文律と、〈星付き〉についてだ。
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