【入学式~新入生歓迎会編】雨天突貫、春雷を潜る

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〈星付き〉。 この学園における絶対かつ最高の存在。 学園で毎年選出される生徒の総称であり、この学園において派閥の上位者は大抵ここに属している。 …一部の例外を除き。 「…確か学園の入学案内にとても細かい記載がありましたね。確か毎年選出され、学費やその他諸々に対し援助を受けられる…といったところでしたか。言わば特待生、スカラシップのような扱いでしょうか?僕らはお金はまあ大丈夫ですが余裕というほどでもないので…」 「食堂のお金がタダってのはうれしいかなぁ…」 「ああ…確かに書面だけ見るとそうだよな。だがこの学園における〈星付き〉ってのは単に優秀ってだけでもない。…〈星付き〉になるってことはこの学園内における多くのことに関する権力を他の生徒や教員から自主的に与えられるってことだ。つまり学園において『支配者側』に立つことを意味する」 「進の言う通り、〈星付き〉ってのは望んでなるものじゃない。勝手に選ばれて、勝手に祀り上げられるものだ。ただしなった時点で学園の派閥争いや事件の渦中にいることになるし、統治する人間としての判断を求められることが多い。それぐらいここじゃ〈星付き〉は絶対なんだ」 そう、多くの新入生は誤解するがこの学園の〈星付き〉は特待生ではない。どちらかと言えば人を統治する国王の様なものだ。しかも〈星付き〉側には選択の余地がない。 この異常な学園を正常に機能させるための一つのシステムとして〈星付き〉が存在する。俺たち外部生からすればとんでもない制度である。 「〈星付き〉は、毎年確かえ~~っと前期中間試験明け辺りでメンバーが決まったはず。去年はちょっと例外だったから俺らは詳しく知らないけどな。お前らは多分選ばれちまうだろうから言っとくが、なった場合は案内に書いてある以外に『公式のファンクラブが出来る』と『星寮に入寮する』があるから覚えとけ」 「なるほど…星寮というのは?」 「東西南北4寮の寮長以外の〈星付き〉しか住めない寮で、俺が管理してる。俺も進も〈星付き〉だけど進は西の寮長だから星寮にはいない」 〈星付き〉をこう言ったところに隔離して住まわせることになったのは同じ屋根の下に一般生徒と〈星付き〉がいると必ず揉め事が起こるからだ。 ストーカー、夜這い、一般生徒同士の争い…去年の【あの事件】の後でさえ沢山あった。その書類の処理に追われ寝不足になった裏方が何人いたことか。 「ん~?てことは、〈星付き〉になったらアキとおんなじ寮なの~?」 「ああ、と言ってもトウは西寮だから進と一緒だろ?ハルは?」 「僕は北です。…そういえば説明の際に北寮の寮長を見ませんでしたが…どうしてアキが説明を?」 「北の寮長、寮とか〈星付き〉とかどうでもいいと思ってるタイプだしまず学校に来てるかも怪しい奴だからな。俺は去年北寮だったしそのよしみで面倒見てるんだ」 「なるほど」 「あ、あとハルもトウも寮で過ごすなら同室には注意しろよ。お前らも顔はいいしスペック高いんだから下手な奴だと変な気起こされたり、トラブルの火種になったりする。そういう時は寮長に…あー、北は俺に連絡してくれ。事情によっては個室を用意してやれるから」 「んー…おれはどっちでも良いけど、早く星寮に移りたいや…アキがいるんだし」 「お前はかわいーこと言う後輩だなぁおらぁ~~」 一緒の寮がいいとちょっと頬を膨らませて眠そうに眉を寄せるトウの頭を撫でる。トウのこういう大型犬みたいな所は憎めない。 大の男が何やってんだと思われそうなものだが天性の甘え上手なのか全くもって違和感がないのだ。 「おやトウ狡いですよ?…僕は可愛い後輩ではないのですか?アキ」 「えぇ…猫被り腐男子プリンス様だし…」 ハルは腐男子なのを隠している上に外面のいい猫被り王子キャラであるため素の状態でも俺たちに対してワザと胡散臭い態度を取ることがある。 まあ、これは俺らもトウもそれが演技だってことを分かってるからやってるので、ある意味ハルの信頼の証なのだ。 「うるせ~…ハルはアキに面倒見てもらえる寮なんだからこんくらい譲れ…」 「おやおや…双子だというのにトウが僕に辛辣です。これでは僕は泣いてしまいます…誰か僕を慰めてくださる方はいないんですかねぇ?」 「いねぇよ!お前ら暁にたかんな。ハルも分かっててやるな。…どっちでも良いなら個室にしとけ、勝手に同室に物盗まれたりしてそれに気づかずストーカーにまで発展したりそれが裏で売られたりした事案もあったらしいからな」 「ああ…」 俺はその時のことを思い出し遠い目をした。 本人が気づかないままだと問題が顕在化しないんだよな…偶々売られていたものが薊先輩の目に入り風紀に話が言ったから良かったものの、暫くはそのルートの炙り出しや生徒のメンタルケアなど俺も駆り出されて大変だった。 「後は学園の派閥についてか?この学園には4つの派閥がある。大体の人間は絶対派閥に入ってるんだ。逆に言えば入ってない奴は相当立ち回りの上手い〈星付き〉と彼らについてる奴等だと思え。そいつらは基本中立で問題が起きない限り干渉してこない。こっちから不用意に触れるのもやめておけ」 進の言う『派閥に入っていない〈星付き〉』は灰良、実優先輩、桃屋敷先輩の仲良し三人組だ。この三人は独自でファンクラブと関わり、三人で同盟を組んで派閥と一定の距離を保ってやっている。 だがこういうことができるのは彼らが知り合いも人脈も魅力もあり、かつとても人付き合いと交渉の上手い三人が協力し合っているからだ。 他の人間では決してこうはいかないだろう。 「つまり、どこかの派閥に入った方が良いと」 「明確に決めなくてもまあ、仲良くしとく奴は選べよって事だ」 「アキは、どこなの?」 「俺はイベント実行ギルド…派閥では【虹】と呼ばれてる所だ。生徒会が【黒】、風紀が【白】、部活管理会が【透】だ。因みに進は【透】のNo3だったか確かその辺」 「お前自分のも言え?暁は【虹】のNo2な」 「おや?てっきり同じ派閥だと思っていましたが」 「あー…まあ色々あってさ。つっても派閥的には【虹】と【透】は不干渉だし俺達は元から仲がいいのは知れてるし、そもそも寮長って繋がりもあるからな、学園内で普通にしてても大して問題ねーんだ」 「そもそも部活管理会は何処かと争いになるのは好まないみたいだもんな。まあ無透先輩がトップなんだからなんだろうけど」 部活管理会はどっちかって言うと風紀と仕事をしている事が多く【白】派閥寄りと言われているが実際はそうでもない。 【黒】や【虹】とだって仕事も出来るしコミュニケーションも取れる。〈星付き〉のメンバーから見たら断然中立ってところだ。 「めんどぉ…派閥とか、他の奴の事とか、考えたくない」 「…僕は腐男子として常に良質な攻めや受けが見られるポジションならば何処でも構いません。…まあアキや進と争うのは本意ではありませんが」 「ならまあ…【虹】か【透】かな。でもお前らが行きたいって思う所で構わない。…イベント実行ギルドは変人が多いって言うのもあるのとちょっと秘密主義的なとこもあってさ、常時人手不足だから来てくれたならまあ歓迎する…夕凪先輩が気に入ればの話だけど」 実際イベント実行ギルドは外部から見ればかなり機密性の高い変人集団だ。 学内で相当異質な立場にある俺ですら結構な常識人にあたる。 まあ全てはトップの夕凪先輩が変人だからだろう。 「ん~…まー、アキがいんなら適当に入る」 「…僕は少々考えたいですね。ああ、トウは何処でも良いでしょうが風紀は合わないのでは?」 「だよなぁ」 「分かる」 俺と進は頷く。 だってトウは結構な自由人だ。ルールの厳しい風紀と上手くやれるとは思えない。 「後詳しい〈星付き〉に関してはこれを見ておいてくれ。全員の顔写真と派閥と性格が乗ってる。…お前らの事だし何かやらかさなきゃ〈星付き〉になるだろ。それとこの学校は案外面倒な暗黙のルールが多い。その辺はこっちに書いてある」 「ふむ…ああ、更衣室を個室にしたり寮ごとに決まり事もあると。…待ってください、『抱きたい・抱かれたいランキング』って何ですか!?そんな夢のような制度が存在して良いんですか!?!?」 「あ~~~…暁」 「俺に説明を投げるな進。『抱きたい・抱かれたいランキング』…この学校の新聞部、写真部、後その他幾つかのインドア部活が年一度、全校生徒にアンケートを取って決定されるランキングの事だよ。内容は察しろ」 …忌々しいことに毎年コレを出している中心人物である写真部兼新聞部部長の座に今年収まったのが灰良なのである。 オタク界隈のカリスマとでも言うのだろうか、文科系部活から異様な程の人気と信望を誇る灰良は元々あったこのランキング制度に色々加え、更に詳細かつドラスティックに演出しようとしているらしい...と言った旨の内容が知りたくも無いのに本人から送られてきた俺の気持ちよ。 大体さ、そう言うのは男女のイメージによって成立する物では無いだろうか。偏見と言われればそれまでだが俺は自分と同じ男を抱きたいとも抱かれてみたいとも思った事が無い。本当に無いし、そもそも今まで女性に対し性欲を抱いたことすらないのだ。 「…因みに二人のの順位をお聞きしても?」 「………」 暫しの沈黙。 「…俺が抱かれたい7位、暁は抱かれたいは俺と同率、抱きたいが5位」 「おい進!」 「諦めろ、どうせすぐバレんぞ」 何で俺を抱きたいのか、説明して欲しいくら…いや、止めよう。俺が傷つく予感しかしない。 「…アキはタチもネコも行けるけどこの学校の人を鑑みるとネコ。分かります」 「分かるな…頼むから」 派閥の話をしていたつもりが全くもって面倒くさい方向に話が展開してしまった。 「ふ~ん、ヤダね、そーゆーの」 「まあ、俺も好きじゃねえな。勝手にランク付けされてんのは気分がいいもんじゃねぇよ...特に暁、お前は『抱きたい』の方入りたくねぇって五月蠅かったもんな…」 「そーなんだよっ…俺はそんな儚げ美人タイプでも可愛い系でも無い!北の奴らからすれば俺はかなり強者側のはずだろ…いや、『抱かれたい』の方でトップにいる人達に勝てる気はしないけど…」 「…気持ちわり。勝手にアキが知らねぇヤツに性欲の対象にされてっとか最悪」 「トウ、落ち着け…仕方ないんだよ、この学校はそうやって成り立ってる所あるから」 話を聞いて嫌悪を隠そうともせず苛々したように髪をかき混ぜるトウを宥める。 トウは普段かなりのんびりしているように見えるが怒ったり苛つくとかなり短気になるし、手も足も出る。犬歯が凄く長いので、ソレがチラリと見えてまるで獣のように見えるのだ。 トウの言っている事については俺も最初この学園に来た時はそういう風に思ったしそれは今でも変わっていない。でもそれはこの学園のほんの一部でしかないし、そのランキングそのものが諸悪の…この学園の空気感や風習の直接の原因でも無いことを一年生時に理解して以来はあまり気にしないようにしている。 「まあ、僕も妄想の対象にしているのはあくまで『僕の妄想する人物像』を基にしていますからね、リアルでそう言う事を考えた事はありませんよ」 「お前に関してはそこが唯一の救いっつーか…マナーは良いよな」 「それをしてアキに嫌われても困りますので」 少し目線を逸らして困ったように言うハルは珍しい。 基本自分の妄想の世界中心に生きるハルだが、俺達の事はそれなりに信頼してくれているのだ。あまり表には出てこないが。 「あっれ、ハル照れてる」 「お~、レアだな。これが暁の先輩効果」 「これでもハルけっこー素直だから…」 ハル以外の三人で顔を見合わせてニヤニヤしながらからかう。 この空気感は嫌いじゃない。 感性も思考もバラバラな俺達4人だが、この学園においては全員外部生、かつ大事な知り合いだ。もし大変なことになった時、何かしらモノを言える相手が増えるのは嬉しい。 勿論ハルとトウは何だかんだと可愛い後輩なので面倒は見るつもりでいる。 その後も色々と書類を双子に渡して帰路につく。 一年前の話は【あの事件】の事も含めてしなかった。どうせハル辺りなら直ぐに情報を手に入れるだろうが自分から話すのも憚られる。 何も言わなかったが進もそれを察して動いてくれたのだろう。本当に頭が上がらない。 …別に格好つけたかった訳じゃない。 でもあの二人にとって、俺は良い先輩で居たいのだ。 明日は新学期の始まり、クラス分けだ。 雨上がりの湿っぽい匂いが鼻に絡みつく。明日は台風の後の様にカラリと晴れるだろう。 …まあ、きっと明日も良い日になる。
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