29人が本棚に入れています
本棚に追加
第五話 朝の出来事
翌朝、携帯のアラーム音で目が覚める。直ぐに起き上がりスーツに着替え、二段ベッドの上で寝ている裕真に声をかける。毎朝、寝起きの悪い裕真は声をかけたぐらいじゃ起きなくてだから起きろと良いながら軽く体をくすぐってやる。
「起きるからやめて。朝から死ぬ」
笑い疲れて目に笑い涙を浮かべながら目を覚ます。
「じゃ、早く起きてこいよ。二度寝しないように」
裕真をその場においてリビングに向かいテレビを着ける。テレビでは今日の占いがやっていた。
「おはよ、兄貴。頼むからあの起こし方はやめてよ。普通に起こして。心臓に悪い」
三分ほどして眠そうな裕真が目を擦りながら起きてきた。
「なら、声かけたときにすっと起きろよ。寝起きの悪いお前を毎朝起こす俺の気にもなれ」
テレビを消して朝のコーヒーを淹れるためにお湯を沸かし始める。
「声が聞こえないんだよ」
「それじゃ仕方ないな。毎朝笑い疲れしてろ」
お湯が沸く音がしてインスタントコーヒーを淹れて椅子に座り一口飲む。裕真は少し不満そうに紅茶を自分で煎れて飲んだ。
「そういや裕真。お前、進路どうするんだ?」
「うちに金無いのは知ってるし、就職する予定」
裕真はそう言うと買ってあった食パンをそのままかじる。
「金の心配はするな。俺が働いてるんだから受験費と入学金、授業料はなんとかしてやる。気になるなら進学してからバイトでもやれ」
食パンをかじる裕真にそう言って頭を優しく叩く。すると裕真は小さな声でわかった、そうすると言った。
「あ、そろそろ時間だから行ってくる。裕真も早く行けよ」
「うん」
家を出て最寄りの駅に向かう。駅のホームで電車を待っていると後ろから誰かに声をかけられる。その声の方を見ると佐倉さんがいつも笑顔で立っていた。
「雨宮さん、偶然ですね。おうち、この辺なんですか?」
「はい、佐倉さんもですか?」
佐倉さんはそうなんですよと答えてくれた。朝から佐倉さんの笑顔を見られるとは思わなかった俺はつい、本人のいる前で今日は良い日になりそうだなと思っていた。
「どうかしました?」
そんな俺に気づいた彼女がそう聞いてくる。慌てて、いや、何でも無いですと言って誤魔化した。
「黄色い線の内側まで下がってお待ち下さい」
電車が来て二人でその電車に乗車する。電車の中で色々話した。羽休めでのこと、休みの日は何をやって過ごしているのか。そして佐倉さんが俺の家族のことを聞いてきたから裕真のことを話す。どれだけ年が離れているのか、裕真は素直で良い子だとかとか。
「雨宮さんって良いお兄さんなんですね。私には家族はいないので羨ましいです」
佐倉さんの言った家族がいないの言葉に家族の話はこれ以上はしない方が良いと思い話題を変えることにした。
「佐倉さんってモテそうですよね」
本当にしょうもないことを言ったと後悔をした。これじゃまるで順みたいじゃないかと思った。
「そんなことないです。彼氏も過去に一人しかいたことないですし。きっとこれからも出来ないと思います。あ、でも、雨宮さんみたいな人が相手だったら幸せそうですね」
佐倉さんの言葉に少し期待をしてしてしまって勘違いをしそうになった。だけど直ぐに自分に恋愛をしている暇はないと言い聞かせる。
「全然。俺なんかを彼氏にしたら相手が可哀想です。俺にとっての彼女は二番目で一番は弟ですから。自分で言うことではないですけどブラコンっぽいですし、気持ち悪いと思います。ちなみに昔唯一付き合ってた彼女にはそれが原因でふられました」
あえて自虐ぎみにそう言って苦笑して見せる。すると佐倉さんは真剣な顔をして弟さんが大切なのは良いことじゃないですかと言ってくれた。
「私は良いと思います。気持ち悪いとも思いません。だってもし、私が雨宮さんとお付き合いしたとしても他人でしかないんです。血が繋がった弟さんを優先させるのも仕方ないと思います。むしろ、それが当たり前なんだと思います」
そう言い切った佐倉さんの顔は嘘を言っている感じではなくて、そんな彼女は本当に良い子なんだなと思った。
「あ、偉そうなことを言ってごめんなさい」
「いえ、全然大丈夫です」
そして、彼女に憧れて良かったと感じた。佐倉さんの降りる駅に着き、彼女はではまたと笑顔で言って行ってしまった。一人になった俺は自分が降りる駅まで目を閉じて過ごした。
会社について順に声をかける。順は朝から元気で、先輩、なんか良いことあったんすかと聞いてくる。
「別にないよ。ただ、朝から佐倉さんに会っただけ」
「マジすか。思いっきり良いことあったじゃないっすか」
順は興奮気味にそう言ってくる。そんな順に冷静に落ち着けと言って席に座る。
「おい、雨宮。ちょっとこっちに来い」
「はい」
出勤してきた上司に呼ばれた。
「この前の会議で言った資料まとめ、どうなってる」
「もう少しで終わります」
少し面倒くさいなと思いながらもそう答えて上司がそれに、そうか、じゃあ早く出せよと言ってきたからわかりましたと答えて席に戻り今日の仕事を始める。
ー続くー
最初のコメントを投稿しよう!