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第二話 日常
「ただいま」
「智にいお帰り。お夕飯作って待ってたよ」
家に着くと幼なじみのまひるがまた来ていた。
「何だ、まひる。また来てたのか」
「またって酷いよ。せっかく来たのに」
俺の言葉にまひるはそう言って少し寂しそうな表情をした。そんなまひるの頭を優しく撫でて嘘だと言って自分の部屋に向かう。着替えを済ませながら今日の羽休めでのことを思い出していた。
「智にい。ちょっと良い?」
「どうした?」
扉越しにまひるの声が聞こえて扉を開ける。
「智にい、あのね。欲しいぬいぐるみがあるの。でも高くてね、私の金銭力では買えなくてね」
まひるはそう言うと上目遣いで見てくる。そんなまひるに俺はあえて嫌そうな顔をして見せた。
「…駄目?」
「いや、駄目じゃないよ。良いよ。買ってあげる」
少しまひるが残念そうな表情をして俺の方を見てきたからそう言って微笑んだ。すると、まひるは笑顔になり喜んだ様子でじゃあ、今度のお休みの日に買いに行こうねと言ってきた。
「わかった。もう夕飯できてるんだろ。下で一緒に食べよう」
「うん」
まひると一緒に下に降りてリビングに着くと弟の裕真が先に作ってあった夕飯を食べていた。
「兄貴お帰り。今日も例のカフェ、何だっけ。そうそう。羽休めだっけか。行ってたのか?」
「うるさい、お前には関係ないだろ」
俺は照れ隠しでそう言うと席に座ってご飯を食べ始める。
「え、智にい。また行ってたの。そんなに可愛い人でもいるの?」
突然まひるに本当のことを言われてすぐに返事を返せなかった。
「何だよ、兄貴、図星?」
「ち、違うよ。そんな気持ちで行ってるわけじゃ」
明らかに動揺を隠せずにいると裕真が面白がってまだ続けてきた。
「やめなよ、裕真くん。智にいが違うって言ってるなら違うんだよ」
「わかったよ、やめるよ」
裕真が黙り、俺はまひるが話す話を夕飯を食べながら聞いていく。まひるは嬉しそうに今日あったこととか今度ぬいぐるみを二人で買いに行くことを話している。
「でね、そのぬいぐるみね、大きいの。あ、でも、私ぐらい大きいわけじゃなくて、私の足ぐらい大きいんだよ」
楽しそうに話すまひるを見て可愛いなと思っていた。
「結構でかいな」
「でしょ」
そんな話をしているといつの間にか食べ終わっていてまひるに帰るように言った。
「智にい、送って?」
「仕方ないな」
目を輝かせて頼んでくるまひるに負けて少しけだるそうに立ち上がりまひるを送ることにした。
「おい、裕真。食器片付けといてくれ」
「ええ、何で俺が。俺は自分の分片付けたぞ。兄貴自分で片付けろよ」
裕真はソファーに横になりながら漫画を読み面倒くさそうに言ってきた。
「良いだろ。片付けといてくれよ。今度、漫画買ってやるからさ」
漫画を取り上げそう言うと微笑んで見せた。
「いや、漫画ぐらい自分で買うし」
「じゃあ、何でも言うことを一つだけなら聞いてやる」
きっとどうしようもないことを言われるのはわかっていたが、帰ってきてから自分でやるのは面倒くさいからそう言ってみる。
「しょうがないな。じゃあ、今度、真弓をうちに泊めても良い?」
「良いよ、そんなことなら。好きしな」
俺の言葉を聞いた裕真はよし、じゃあやると言って立ち上がり、片付けを始めた。裕真は本当に単純だなと思っていた。
「行くか」
まひるを送る為に二人で外に出る。外は白い息がでるほどに冷え込んでいた。
「智にい、寒いね」
まひるはそう言うと俺の腕にくっついてきた。
「あんまくっつくと歩きにくいって」
「ごめんなさい」
まひるはそう言うと少し離れてくれた。まひるは可愛いと思うけど、俺にとってのまひるはただの幼なじみで妹みたいな存在だった。
「お休み」
まひるの家の前につき頭を撫でる。
「ねえ、智にい。キスして」
「駄目だよ。そういうことはちゃんと好きな人としなさい」
俺が微笑むとまひるは何かを言いかけやめると家の中に帰って行った。
ー続くー
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