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第三話 可愛い弟
少し不思議に思ったが聞かずに帰ることにした。
「ただいま、裕真」
リビングに行くと裕真はいなくて自分達の部屋に行ってみる。すると裕真は誰かと携帯で話をしているようで帰ってきた俺に気づいていなかった。
「彼女か?」
俺は小さな声で裕真の耳元で話しかける。
「兄貴。ちょっ、ごめん。兄貴帰ってきたから電話切るわ。うん、その話は大丈夫だって。ちゃんと話したから。それじゃ、また明日。ばいばい」
裕真は慌てて電話を切った。
「まゆちゃんか?」
「そうだけど。その呼び方止めろよ。何か、嫌だ」
裕真は俺がまゆちゃんと呼ぶのを嫌がる。俺としてはただ一人の弟の彼女だから親しみを込めて呼んでいるつもりなんだけど。それでも裕真は自分の大切な彼女をそう呼ばれるのは嫌なのだろう。
「良いだろ、まゆちゃんって呼び方可愛いんだから」
「何だよ、もう。宿題やるから静かにしてくれよ」
裕真はそう言うと机に向かい高校で出された宿題を始める。
「みてやろうか?」
「良いって。大丈夫だから」
裕真は邪魔そうにそういうと何も話さなくなった。
「無理しない程度に頑張れよ」
俺は裕真を軽く撫でて部屋を出た。
裕真と俺は幼い頃からいつも一緒で、父親が亡くなってから、母親は家を留守がちになり、いつの間にか帰ってこなくなっていた。母親が帰ってこなくなったのは俺が高校三年生で裕真がまだ小学五年生の時だった。高校はバイトをしてなんとか卒業し、就職先は親戚のコネで今の会社に就職させて貰った。だから俺は裕真が可愛くて仕方なくて裕真がどんな態度をとっても可愛がっていた。
「仕方ないな。今日は裕真も宿題やってるみたいだし風呂入ってソファーで寝るか」
俺は台所の水道から水をいれて一杯飲み、そう独り言を呟いて風呂に入ってソファーに横になる。
「兄貴、起きてる?」
ソファーで横になっていると裕真がそう声をかけてきた。
「起きてるけど何?」
「あのさ、真弓が泊まりに来る時、俺たちの部屋で寝たいんだけど良い?」
裕真にそう言われて俺はわかった良いよと返した。
「ただし、変なことするなよ。ここ、壁、薄いんだから」
「わ、わかってるよ。別にしねえよ」
裕真は顔を赤くして焦るようにそう言うと部屋に戻っていった。
「やらないって事ぐらいわかってるよ。あいつも馬鹿だな」
裕真に思わず馬鹿だなと可愛く思いながら小さく笑った。
ー続くー
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