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女子が来たためイヤホンを外して聞く態勢を作る。 そして、それを勘違いした強ノ助である。
「お? 俺に聴かせてくれるのか?」
話を聞く間、音楽を聞かせるという選択肢もあった。 そうすれば話をすることの邪魔にはならないだろう。 だがイヤホンを貸すのは何故か負けな気がするのだ。
この先、何度もイヤホンを貸せと言われるに決まっている。
―――違うわ。
―――俺の目をよく見てみろ。
―――馬鹿なんて眼中にないだろ。
だが女子の様子もどことなくおかしい気がした。 強ノ助のことなんてまるで気にも留めていない。
「ねぇ、久遠くん。 屋上へ来てほしいってさ」
―――・・・一体誰からだ?
―――そんな約束、誰かとしていたっけ。
「あー、誰からかは分からないんだけど。 確かに久遠くんを呼んでいるの」
久遠の言いたいことが分かったのか、女子はそう続けた。 そのまま足早に背中を向けた。
―――何だそれ。
―――一体何のことだかサッパリだが、緊急事態だったら大変なことになるな。
―――一応行ってみるか。
緊急事態について心当たりは全くないが、屋上に呼ばれること自体が初めてなのだ。 もしかしたら誰かに告白されるのかもしれない、なんて思うと少しだけ気分も浮付いてくる。
「お、何だ? どこへ行くんだ? 俺も付いていっていいか?」
もう音楽から興味はなくなったのか、強ノ助が付いてこようとする。 屋上に呼ばれる心当たりはないが、どんな場所にでも強ノ助には付いてこられたくないのだ。
―――いいわけあるか。
―――どうして馬鹿も付いてくることになるんだ?
―――今の話何も聞いていないな。
―――目配せも一切していないだろ。
―――馬鹿は来るな。
教室のドアを閉め強ノ助の行く手を阻んだ。 廊下を歩いていると今度は男子に話しかけられる。 別のクラスの話したこともない男子だ。
「おう、久遠。 誰かは知らないけど、屋上へ来いって呼んでいるぞ」
―――は?
―――意味が分からない。
―――複数人に伝言を頼んでいるとか、どれだけ俺に来てほしいんだよ。
ここで屋上で待っているのが、可愛い女子からの告白という妄想は吹き飛んだ。 もしかしたらほんの少しはその可能性もあるのかもしれないが、何人にも頼むというのは明らかにおかしい。
更に屋上に近付くにつれ、奇妙な気配を感じるのもおかしかった。
―――ん、これは何の気配だ?
―――一体誰が待っていると言うんだ。
まるで暗闇に狼が潜んでいるような感覚。 どこにいるのかも分からず、一方的に自分だけが狙われているような不快感だ。 ゆっくりと屋上の扉を開ける。
するとそこには学ランを羽織って背を向けた一人の少年がいた。 少年は振り向き様にニヤリと笑う。
「・・・ようやく見つけた」
まるで自分を知っているかのような台詞。 だが、久遠には全く見覚えがない。
―――・・・誰だ?
―――そもそもこの学校はブレザーだから、絶対に他校の生徒だよな。
―――こんな中二病みたいな奴、知り合いにいたっけ?
「俺の名は操(ミサオ)」
―――知らないな。
「お前と同じ超能力者だ」
普通なら唐突な言葉を受け入れることはできない。 だが久遠自身超能力者であり、少年の纏う妙な雰囲気に嫌でもそうなのだと理解させられた。
超能力のことを知っていて呼び付けたのだから、この見知らぬ少年が自分を呼んでいることに間違いないのだろう。
―――へぇ、初めて仲間に会った。
―――あの強いオーラは超能力者同士が近付くと感じられるのか。
だがその意図は分からない。 呑気に観察していると、少年はとんでもないことを言い出した。
「ちなみに、超能力者は残り俺たち二人だけだ。 他は俺が殺した」
―――・・・は?
「俺は超能力を持つたった一人の男になるんだ! だからここへ来た!」
―――・・・。
「さぁ、俺とラスト勝負をしようではないか!」
―――黙秘権を使おう。
―――俺が超能力者だと既にバレているが、俺は戦いたくないし死にたくもない。
「どうした? 早く来いよ」
「・・・」
「あぁ、そうだ。 俺の超能力を紹介しておこう。 俺はマインドコントロールが使えるんだ。 君を呼ぶためにも使わせてもらった。 君は一体何の超能力を使えるんだ?」
そう尋ねられ久遠は言葉を失った。
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